タバコの葉を電気で加熱し、その蒸気を吸う「加熱式たばこ」の販売開始から今年で10年を迎える。紙巻きたばこと比べにおいが少ない上に健康リスクが低い可能性があり、愛煙家の加熱式への移行は年々加速。国内たばこ市場の約4割を占めるようになった。これに対し、政府は割安な加熱式の税率を紙巻きと同率まで引き上げる方針を示しており、たばこ業界側からは懸念の声も上がっている。
「規制面での働きかけと社会からの支援があれば、最大15年以内に紙巻きの販売を段階的に終了できる」
フィリップモリスジャパン(PMJ)でコミュニケーションズ・ディレクターを務めるセシリア・シウ氏は、将来的な加熱式への完全移行について語った。
加熱式は2014年にPMJが日本で発売。以降、日本たばこ産業(JT)や、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンが後に続き、市場は活発化している。
健康志向の高まりや度重なるたばこ税増税などで喫煙者自体は減少。日本たばこ協会によると、紙巻きの販売数量は10年度に2000億本超だったが、23年度は878億本まで減った。一方、加熱式は同年度に市場全体の約4割を占める585億本に達した。PMJは、東京都内での加熱式の販売数量が今年1月に紙巻きを上回ったという。
加熱式の需要が高まる背景には、紙巻きの味わいや吸いごたえを維持しつつ、健康リスクの低減が期待される点が挙げられる。
加熱式はタバコ葉を燃焼させず、加熱することで発生する蒸気を楽しむのが大きな特徴。PMJによると、タバコ葉を燃焼させると発がん性物質を含む約100種類の「有害および有害性成分」(HPHC)が煙として発生するため、疾患の主な要因は燃焼というたばこの吸い方にあるという。同社関連の研究機関によると、加熱式の蒸気は紙巻きの煙と比べ、世界保健機関(WHO)などが指定するHPHCの量が平均90〜95%低減されるとした。
JTが17年に実施した臨床試験でも、加熱式の使用者が体内に取り込むHPHCの量は、大半の種類でたばこを吸わない禁煙者と同レベルにとどまった。
ただ、長期的な臨床データが不足しており、副流煙の影響を含めて実際に健康リスクの低減につながるかどうかは、「可能性」の段階というのが共通認識だ。
一方、日本政府は防衛力強化に向けた財源としてたばこ税の増税方針を示し、紙巻きよりも割安な加熱式の税率を引き上げる考えを明らかにしている。これに対し、たばこ業界からは「喫煙者がリスクを抑えられる、より良い代替品(加熱式)にシフトすることを社会が支援すべきだ」(PMJ)と優遇を求める声が上がっている。
実際、欧米では身体への悪影響を減らす「ハームリダクション」(害の低減)の概念のもと、政策で紙巻きの代替として加熱式への移行を促す動きがあり、加熱式の税率や規制を大幅に優遇する事例もみられる。
健康と喫煙の問題に詳しい大阪国際がんセンターの大島明特別研究員は「加熱式は紙巻きの需要を減らした点では一定の評価ができる」と前向きに受け止めつつ、業界側が主張する健康リスクの低減を裏付ける客観的なデータはまだないと指摘。「現状の仕組みでは税率引き上げは仕方がない。国は早急に加熱式と健康との関連性に関する調査を進めるべきだ」と語った。(福田涼太郎)
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