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詐欺被害者狙う”第2の犯罪” 「着手金ビジネス」サイト乱立 問われる弁護士業界

» 2024年08月20日 10時35分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 現役弁護士の名義を借り、詐欺被害を回復できるなどとうたって業務を請け負っていたとして、弁護士を含むグループが警視庁に摘発された。インターネット上には同様の手法で詐欺被害者から着手金を徴収する詐欺まがいのビジネスをうたうサイトが乱立する。弁護士会は警戒を強めているが、犯罪に加担しても、弁護士資格を無期限に奪する制度はなく、業界の自浄能力が問われている。

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半年で5億円集金

 「詐欺被害の返金は弁護士にお任せください」

 元衆院議員の弁護士、今野智博被告(49、弁護士法違反罪で起訴)の弁護士事務所のサイトには、こんなキャッチコピーが掲げられていた。

 警視庁捜査2課によると、サイトは今野被告の運営ではなく、名義を借りた男女ら。資格がないのに弁護士業務を行う「非弁業者」だ。8月13日には、メンバー集めや拠点確保を担い、行方をくらませていた主犯格の湊和徳容疑者(40)を逮捕した。

 特殊詐欺やSNS型投資詐欺、ロマンス詐欺などの被害者からの回復をうたって相談を募り、着手金を受け取る。詐欺グループ側の口座凍結手続きなど、弁護士業務を違法に行っていた。

 2023年9月〜24年3月の約半年間で、詐欺被害者約900人から計約5億円を集金。今野被告にはその約1割が支払われていた。しかし、「被害者に被害金が返還された実績はほぼなかった」(捜査関係者)

見えない実態

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 ネット上にはこんな文言で被害金返還をうたうサイトがいくつもある。東京弁護士会によると、これらは大部分が非弁業者による詐欺まがいのビジネスという。

「非弁提携弁護士対策本部」の弁護士、小早川真行氏は「債務整理などに関わることが多かった非弁業者がここ3年ほどで着手金ビジネスにシフトしているようだ」と分析する。

 日本弁護士連合会(日弁連)の集計では、非弁業者との提携によって懲戒処分を受けた弁護士は、19年3件、20年10件、21年3件、22年3件、23年4件──と推移している。一方で、どのくらいの弁護士が非弁業者に手を貸しているかなど実体は見えないのが実情だ。

処分の甘さが助長

 弁護士の違法行為に対する処分の甘さが非弁業者との提携を助長しているという指摘もある。

 弁護士は弁護士会に所属して活動するが、弁護士会の懲戒処分は(1)反省を求める「戒告」、(2)2年以内の業務停止、(3)退会命令(弁護士として活動できなくなるが資格は継続)、(4)除名(活動できなくなる上、資格も3年間失う)──の4種類。ただ、一番重い「除名」でも3年たてば再び弁護士会に登録することができるため、ある弁護士は「実効性がどこまであるかは未知数だ」と懐疑的な見方を示す。

 また、非弁業者は、懲戒中や引退した弁護士、コンプライアンス(法令順守)意識の育っていない若手弁護士などを狙って犯罪に誘う傾向もある。ある警察幹部は「弁護士会の内規の甘さが、弁護士の犯罪行為を助長している側面はないか」と疑問を呈し、「業界の自浄作用が強まることを期待したい」と話した。(外崎晃彦)

立場悪用の犯罪相次ぐ

 依頼人から預かった金銭の着服や名義貸しなど、弁護士が法律の知識や信用性を盾にした犯罪は相次いで起きている。

 「着手金ビジネス」を巡っては6月、恋愛感情を抱かせて金銭をだまし取るロマンス詐欺の被害金回収をうたい、広告会社に弁護士名義を貸して法律事務をさせたとして、大阪地検特捜部が弁護士法違反(非弁護士との提携)の罪で、大阪弁護士会所属の弁護士の男を起訴した。

 ロマンス詐欺の被害金回収名目の事件は昨年12月にも起きており、大阪府警が東京の弁護士の男ら4人を逮捕した。男らの事務所はインターネット上で「ロマンス詐欺緊急相談窓口」とうたうサイトを開設。「被害金の大半の返金に成功した」とアピールしていた。

 また、2月には不動産売却手続きを受任し、保証金として預かった200万円を自身の口座に送金して着服したとして、警視庁が業務上横領容疑で80代の弁護士の男を逮捕している。

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