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公立高初のゲームデザインコースで統廃合回避 愛媛の分校、26兆円市場支える人材育成へ

» 2024年08月28日 16時54分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 ゲーム作りに必要なアニメーション制作やプログラミングなどを学べるコースが2025年4月、愛媛県立松山南高校砥部分校に誕生する。ゲーム開発などを手掛ける民間企業が校内にサテライトオフィスを構え、スタッフが授業や部活動の指導に当たる。県教委によると、ゲームデザインを学べるコースは全国の公立高校で初という。ゲーム市場は世界で26兆円ともいわれる成長産業。一方で担い手となるデジタル人材の確保が課題で、専門家は「現場で通用する最先端の技術を高校で学べる意義は大きい」と話す。

photo 体験授業で、キャラクターの目が閉じるように動きを制御する作業を行う中学生ら=愛媛県砥部町の県立松山南高校砥部分校(前川康二撮影)

ゲームのキャラはどう作る?

 「白目が動かない…」「うまくできた!」

 砥部分校で8月に行われた1日体験入学。来年度から新設される「ゲームクリエーションコース」の実習で、中学生ら約30人がPCに向かって必死にマウスを動かしていた。

 実習は「Live2D」という専用ソフトを使用。女性キャラクターの右目を形作る白目、黒目、まつげ、目尻など6つのパーツを制御して目を閉じる動作を表現する作業を約1時間かけて完成させた。

 講師を務めたゲーム開発会社「オートクチュール」のアニメーションディレクター、宮崎望さんは時々ユーモアを交えながら丁寧に作業手順を説明。最後に、宮崎さんが作ったというアニメーションを紹介すると参加した中学生からは「すごい」と歓声があがった。

 広島県尾道市から参加したという中学3年、篠原奈乃佳さん(15)は「普段親しんでいるゲームのキャラがどう作られているのか知れて新鮮だった」と笑顔。松山市の中学2年、台野紗奈さん(13)は「入学してもっと学んでみたい」と話していた。

photo 体験授業でパソコン操作を説明するアニメーションディレクターの宮崎望さん

高校は存続模索、業界は人材不足

 砥部分校は1948年に定時制普通科の県立砥部高校として開校。現在は地元特産の伝統工芸品「砥部焼」作りやグラフィックなどを学べる公立で全国唯一のデザイン科単科高校となっている。

 しかし近年の生徒数減少を受け県教委が2022年に打ち出した公立高校の再編計画で統合対象に。砥部町や地元有志らが高校の存続方法を模索するなか、社長が県出身でもあり、町と交流のあった同社に協力を打診。同社が校内にサテライトオフィスを設け授業に参画、生徒を全国公募し寮を整備することなどを盛り込んだ対案が県教委に認められ、新コースの設置にこぎつけた。

 オートクチュールの安野雅也取締役は「業界は常に人材不足で、専門学校の卒業生でも仕事を任せられるスキルを持った人は少ない。優秀な人材を育てることは自社も含め業界のためになる」と狙いを打ち明ける。

ゲーム産業で活躍できる人材を

 出版大手のKADOKAWAグループが発表した「ファミ通ゲーム白書2023」によると、2022年の世界のゲームコンテンツ市場は推計26兆8005億円。10年前に比べ4倍超に拡大しており、国内でも2兆316億円と約2倍となっている。

 ゲーム産業に詳しい芝浦工業大システム理工学部の小山友介教授(ゲーム産業論)によると、近年はスマートフォンの普及とともにネットワーク接続を前提としたスマホアプリが急速に普及。小山教授は「端末が一般化した影響で国の境がなくなり、巨額の開発費を投じた中国や韓国の作品が日本でも売り上げ上位に入ってきている状況」と話す。

 一方で「日本独自のゲーム文化は海外にもファンが多く、ニッチトップの作品として親しまれている」と指摘。そのうえで「『ファミコン』の発売から40年が経過し、ゲームはもはや産業として地位を確立している。ただ、技術革新が著しい産業でもあり、技術者はその変化に対応していく努力が常に求められる」と指摘する。

 砥部分校では、1年でゲームデザインの基礎を学習。2年からのコース選択後はゲームデザインの時間を週6時間確保し、実際にゲーム制作の現場で使用されているソフトを使って2Dアニメーションの作り方や3Dモデルの作成方法、ゲームプログラミングなど最新の技術を学ぶ。授業はオートクチュールの技術者が講師を務め、卒業時にはグループでゲームが作れるレベルまで技術を身に付けることを目標にするという。

 「早いうちに最先端の技術に触れる機会を提供したい。その生徒がゲーム産業で活躍することで、砥部分校を目指す人が増えていくという好循環を生み出せれば」と安野取締役。砥部分校の徳森久子分校長は「デザインを通して社会に貢献する人材を育てていきたい」と話した。(前川康二)

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