日立製作所が労働人口の減少を見込み、企業向けに生成AIを使い、人手不足などの社会課題を解決する支援サービスを強化している。生成AIをデジタル事業の中核に据え、今年度に3000億円を投資し、2027年度までに5万人の専門人材を育成する。米IT大手と相次いで提携しており、サービスの充実化を図り、成長機会を取り込む。
「国内外で人手不足が深刻化している。データとテクノロジーを活用し、社会課題を解決したい」。日立の小島啓二社長は4日に都内で開いた自社の技術展示会で、こう強調した。
09年3月期に最終赤字7873億円を計上し、大規模な構造改革の断行で復活した日立。事業を積極的に組み替え、デジタル製造業に変貌したが、経営危機から15年経ても、ぶれないのが技術で社会課題を解決する姿勢だ。
次の成長ステージのターゲットに据えたのが生成AI。国内でも昨年から多くの大手企業で文書作成やデータ分析などで使われているが、さらに活用の領域が広がるとみられている。
生成AI活用を推進する専門組織「Generative AIセンター」の吉田順センター長は「今後は熟練者の技術継承など本当に現場で課題となっている領域に踏み込むことになる」と予測する。
鉄道や電力、産業機器などの事業を展開する日立自身も人手不足は大きな課題で、生成AIを使った業務の効率化に取り組む。
鉄道事業ではメタバース(仮想空間)上で保守点検のシミュレーションを行いながら、故障対応を学べるシステムの開発を進めている。蓄積した保守データを活用し、生成AIに学習させ、メタバース上で異常を発生させ、適切な指示を出してくれるという。
現在、日立はグループ社員27万人に生成AIの活用を促進し、知見を蓄積している。同センターにはデータサイエンティストや研究者、法務、知的財産など社内の各業務の専門家が集まる。すでに1000件以上の事例を作り出しており、吉田氏は「社内の実績を顧客に提供したい」と話す。
今年度は事業拡大に向けて、データセンターの整備やシステム開発、M&A(合併・買収)などに3000億円を投資する計画だ。
3月にはNVIDIA、5月にGoogle、6月にMicrosoftなど米IT大手と提携。先端技術を取り込んで、顧客の要望に応じて、最適なサービスを提供する狙いがある。
10月には専門性の高い業務分野の質問にも適切に回答できる企業向け生成AIサービスも始める。
日立はデータを収集・分析するデジタル基盤「ルマーダ」事業に力を入れており、令和6年度に売上高に当たる売上収益で2兆6500億円を目指している。生成AIは今後のルマーダ事業の成長の牽引役として期待されている。
市場も日立の取り組みを評価。生成AIの普及でデータセンターの建設が増え、電力の制御を効率化できる送配電事業の好調が追い風となっている。今年、日立の時価総額は16兆円台に乗せ、約9年ぶりにソニーグループを超えた。
大和証券の大川淳士アナリストは「送配電事業を展開する日立エナジーの24年4〜6月期の受注高は売上収益の2倍弱と好調な伸びで、生成AIの取り組みへの期待も大きい」と分析。大川氏は「生成AIがルマーダのサービスにいかに広げられるかが成長のポイントになる」と指摘する。(黄金崎元)
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