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AIが患者の治療法導くか IT企業の動き活発 医療現場のデータ解析に強み生かす

» 2024年10月17日 18時15分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 国内外のIT企業の間で人工知能(AI)を医療分野に活用する動きが活発だ。診療記録や検査結果など大量のデータ処理にAIの強みを生かせることが背景にあり、医師の業務効率化や患者ごとの最適な治療法の提供などに向けたサービス開発を進めている。AIが治療法を導く時代が、近く訪れるかもしれない。

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「AIが医療の役に立つ時来た」

 ソフトバンクグループは8月、米国のスタートアップ「テンパスAI」と合弁会社を設立した。数年以内に国内でAIによる医療支援サービスの提供を目指す。患者の遺伝子情報や病理検査などの医療データを収集・匿名化してAIが解析。治療の選択肢を提示することを想定する。

 ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は6月下旬に合弁会社設立を発表した際、「AIが医療の役に立つタイミングが来た」と強調した。

 米Microsoftは5月に、病理画像を基にがんの種類や特徴を見分ける医療特化のAIモデルを開発したと発表。米AWSも、胸部X線検査の画像をAIに分析させ、どのような症状を引き起こしている可能性があるかを回答させる医療画像の解釈支援サービスを開発している。

AIと医療現場に親和性

 自動で文章などを作成する生成AIの登場・普及とともに、AIを業務効率化や人手不足の解消などで活用しようとする動きは、どの分野でも進められている。その中でも各社が次々に医療分野での取り組みに力を注ぐ理由には、AIと医療現場との親和性の高さがある。

 医療現場には患者の検査結果や投薬記録、レントゲン画像といったデータが膨大に存在し、データの整理や解析、要約などを得意とするAIの能力を存分に発揮させやすいのだ。

 既にAIを導入している医療現場もある。HITO病院(愛媛県四国中央市)は日本マイクロソフトの支援を受け、患者からの相談を受け付けるチャットボットや医療関係の論文翻訳などに生成AIを活用。同院の篠原直樹医師は「人材不足かつ、正解のない時代に地域医療を継続するためにはAIの力が必要だ」と話す。

政府は慎重 法整備追いつかず

 政府も現場の負担軽減などへ向け、AIの医療分野での活用の可能性を探っている。ただ、人間の生死にかかわる分野だけに極めて慎重に検討を進めている。積極的に活用を広げていくには議論やルール整備が追いついていない状況だ。

 厚生労働省は2021年に開かれた政府のAI戦略に関する会議で、画像診断や治療方法創出などでのAI活用を例示し、国民や医療従事者、民間企業にメリットがあると指摘した。経済産業省はAIやソフトウエアを活用した次世代型医療機器の海外展開を目指す企業の支援に乗り出し、25年度概算要求に関連予算を盛り込んだ。

 ただ現状、AIの活用範囲は限定的だ。医療現場で使うAIを含めたソフトウエアなどは「プログラム医療機器」として承認を得る必要がある。審査に少なくとも数カ月かかるなど認定ハードルが高く、進化のスピードが早いAIにとっては相性が悪くなっている。

 審査を担う医薬品医療機器総合機構(PMDA)によると、AI関係の機器の承認は9月末時点で41品目にとどまっているという。

 AIの特性上、承認を受けたモデルでも、医師に誤った助言をするおそれもある。厚労省は18年に、AIを用いた支援プログラムを利用する場合でも診療や治療の主体は医師で、責任は医師が負う旨の通知を各都道府県に出している。リスク管理の難しさも利用が進みにくい一因だ。

 NTTデータ経営研究所の北野浩之アソシエイトパートナーは、現状での医療分野へのAI活用は、資料作成などの事務作業の効率化にとどまると指摘。AIによる治療法の提案などが活用されるためには「医師が責任を強く問われない形にすることが必要」であり、「AIを導入する病院とAI開発企業との間で、責任分界点を明らかにするための法整備などが必要だ」と訴えた。(根本和哉、飛松馨)

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