西日本を中心に「ジャンカラ」を展開しているTOAIは、コロナ禍で「売り上げゼロ」を経験するもITを活用して反転攻勢に成功。さらなるデジタル変革に取り組むべく、東京オフィスの開設を2024年度中に予定しているなどIT人材、デジタル人材の採用に注力している。同社が描くビジョンを社長に聞いた。
友達や恋人と“推し”の楽曲を歌いに行く、二次会で歌って盛り上がる、一人で熱唱する、個室で女子会をする――日本独自のエンターテインメントとして親しまれているカラオケ。人々の「歌いたい!」という声に応えているカラオケチェーンの一つが「ジャンカラ」だ。
ジャンカラの店舗数は西日本を中心に180を超え、ほぼ毎月のペースで新規出店を続けている。コロナ禍の営業自粛により「売り上げゼロ」の苦労を味わったジャンカラだが、テクノロジーを活用した反転攻勢に成功。さらなる大変貌を遂げようとしている。
ジャンカラを運営するTOAIの東原元規氏(代表取締役社長)は、デジタルを武器にして旧態依然としたカラオケビジネスに“革命”をもたらそうと意気込む。こうした変革を実現すべくIT人材、デジタル人材を積極的に採用中で、新たな採用拠点となる東京オフィスを2024年度中に開設する予定もある。従業員と一緒に目指す未来や事業戦略について聞いた。
TOAIを創業したのは東原元規氏の父だ。1986年の創業から2024年で39期目になる。現在はカラオケ店以外に飲食店やフィットネスジム、買い物代行サービスなども展開している。ホテルチェーンの「湯快リゾート」も経営していたが、コロナ禍前に売却している。
東原元規氏は二代目社長だが、現状に満足するような、関西でいう「二代目のボンボン」ではない。テクノロジーの力を信じて事業戦略を描き、さまざまな戦略を実行し続けている。この姿勢は経歴を知るとうなずける。国内大手企業に就職した後、IT革命真っただ中の米国に渡ってインターネットやITが社会に与える影響を目の当たりにした。ミシガン大学のMBA(経営学修士)を取得して帰国し、世界規模のコンサルティングファームを経てTOAIに入社。テクノロジーによる事業変革に注力することになった。
――と、ここまで読むと順風満帆な道のりを想像するだろう。しかし、コロナ禍がその行く手を阻んだ。東原元規氏の社長就任後、事業ポートフォリオを見直してホテル事業を売却し、カラオケ事業に本腰を入れて「さあこれから!」と意気込んだ矢先のことだった。
「2020年4月、新型コロナ対策である緊急事態宣言が全国に拡大されました。それからおよそ3カ月はカラオケ店の休業を余儀なくされて売り上げゼロの苦しい時期が続きました。国内カラオケ店舗の閉店や海外展開していた飲食事業などの撤退が重なり、息もできないような状況でした」
しかし、東原氏はこの逆境からカラオケ事業を進化させるヒントを見いだす。
「コロナ禍を境に消費者の意識が激変すると感じました。Web会議が定着し、キャッシュレス決済やペーパーレス化が進展しましたよね。テクノロジーが社会の変化を加速させて、消費者もそれを当たり前のように受け入れるようになると確信しました。大手企業がコロナ禍で採用を控えたタイミングを『優秀な人材獲得の好機』とみて、IT人材、デジタル人材への投資をかつてないレベルまで拡大し、中途採用を加速させました。データサイエンティストを含め、当社のIT部門、デジタル部門の体制は現在30人以上の規模に拡大していて、優秀な人材をこれからもまだまだ採用するつもりです」
東原氏は、海外視察やコロナ禍の経験からカラオケ事業×テクノロジーの未来に大きな可能性を見たと目を輝かせる。
「10年ほど前、カリフォルニア出張の際にサービス開始直後の配車アプリ『Uber』が現地のタクシー業界をディスラプト(破壊)して、その革新的サービスがデファクトスタンダードになっている光景に衝撃を受け、デジタルの可能性に気付かされました。帰国後すぐに国内版配車アプリの可能性を調査しましたが、関連規制のハードルの高さから事業化を断念し、TOAIの本業であるカラオケ事業をデジタルの力で革新する方向にかじを切りました。Uberのようにスマホアプリで完結する顧客体験を構築したいと考え、まずはスマホでの予約、精算システムである『すぐカラ』を2019年に開発、リリースしました。スマホアプリで部屋を予約すれば、来店時に受け付け手続きをせずに入室して歌い始められる上に、退店時も精算手続きをスキップできるようになり、店員とのやりとりが不要になりました」
カラオケ業界で会員アプリは一般的だったが、入店受け付けと精算が不要となる機能を搭載したのは画期的だった。さらに「お店に到着した瞬間にカンパイしたい」「来店前におはこリストから歌う曲を選択して事前登録できたらうれしい」など、利用者の潜在ニーズに応えるべくさまざまな機能を追加。カラオケ料金のアプリ内決済、入店前の楽曲予約や飲食注文などを実現させた。
かつてはカラオケ利用者の大半が当日受け付けで、電話などでの予約は利用全体のわずか2〜3%程度だった。すぐカラの非対面、非接触の機能が功を奏して、コロナ禍の1年間ですぐカラ経由の予約が全体の約40%を占めるまでに急増。直近ではその利便性がさらに多くの顧客に広く受け入れられ、全体の60%を超えている。
ジャンカラの公式アプリ。店舗での受付が不要な「すぐカラ」の他にも、来店前にアプリでドリンクやフードをオーダーしておけば予約時間に注文商品が到着する「0秒乾杯」、歌いたい曲を入室前に選んで予約リストに登録しておけば入室後すぐに歌える「事前楽曲予約」、アプリにクレジットカードを登録しておけば受付での精算なしで退店できる「0秒決済」など新たなデジタルサービスを次々にリリースしている(提供:TOAI)すぐカラの利便性が評価され、多くの利用者から「すぐカラ予約やスマホでの曲入力を一度体験するとジャンカラ以外のカラオケ店には行く気がしない」という声が届くようになったという。アプリの利便性がジャンカラを選ぶ動機になっており、差別化が困難だといわれるカラオケ業界で大きな優位性を獲得。その結果、2024年5月期の売上高、利益はどちらも同期比で過去最高を記録している。
「すぐカラは省人化の効果も非常に大きいですが、コストダウンのためにデジタル化するのではなく、デジタル化でこそ成し得る顧客付加価値の向上をひたすら追いかけています」
TOAIはすぐカラの成功体験を基に、利用客に寄り添ったアプリの開発や機敏なビジネス変革をカラオケ以外の事業にも横展開しようとしている。そのためにもトップレベルのIT人材、デジタル人材を仲間に迎えたいと東原氏は言う。
ここで東原氏に突っ込んだ質問をしてみた。部屋を貸すカラオケ事業は「空間ビジネス」であり、部屋の数と売り上げが直結しているので、成長に限界があるのではないか――この問いに、東原氏は次のように答える。
「成長ドライバーが新規出店だけのアナログな従来型経営では直線的成長しか出来ませんし、限界もあります。しかし、デジタルの視点で事業を捉え直せばいくらでも成長の機会はあるのです。例えばすぐカラアプリの業界プラットフォーム化、直近で力を入れているオンラインカラオケアプリ事業とオフラインのカラオケ事業でシナジーを創出するOMO戦略、顧客データを活用したカラオケ空間の広告媒体化など、デジタルの力で会社を指数関数的な成長カーブに乗せるアイデアはたくさんあります。アイデアはあるが、人材が足りていないのが現状です。成長そのものが目的なのではなく、デジタルの力を使ってわれわれにしかつくれない価値を世の中に提供し、ただお客さまに喜んでもらえる場やサービスを作り続けたいのです。その結果として会社が成長するのだと思います。特にデジタル敗戦国といわれて久しい日本だからこそ、あらゆる産業でデジタル化による革新のチャンスだらけだと感じています」
アイデアは他にもある。家具メーカーや食品メーカーなど試用や試食の場を探している企業とコラボして、カラオケルーム内に商品を置いてショールーム化し、広告料や販売手数料を得る。さまざまな試作品を顧客に試してもらい、顧客の声を各社の商品開発にフィードバックすることも検討しているという。
こうした広告媒体戦略は、米国の小売り大手のウォルマートのリテールメディア事業を連想させるビジョンだ。ウォルマートは自社アプリや店舗のデジタルサイネージを広告媒体として販売することで、広告代理店に匹敵する広告収入を得ているという。カラオケ利用者の同意やプライバシーへの配慮は必須だが、そのハードルを乗り越えれば今後に期待できるだろう。
東原氏が考えるスケール戦略は止まらない。すぐカラなどのITシステムをプラットフォーム化してカラオケ業界内に横展開する計画もある。カラオケ業界はDXが進んでいるとは言い難いため、すぐカラなどで構築した予約、注文、決済システムを他のカラオケチェーンに外販するプロジェクトも進行中だ。「KARAOKE」が世界に広まったことを背景に、将来的にはアジアを含めた海外に展開することも視野に入れているという。
また、TOAIはオンラインカラオケアプリ「UTAO」を2023年にリリース。2024年8月には業界2位のカラオケ配信サービス「KARASTA」をMIXIから買収した。これらはスマホでカラオケ体験ができるアプリで、歌詞や音程の表示、採点などの機能を備えている。UTAOやKARASTAと実店舗を連携させられれば、新たな価値や体験を提供できる。
ここまで紹介したものはTOAIが目指す変革の一部にすぎない。東原氏は「やりたい事や事業アイデアはたくさんあります。その実現のためには優秀なIT人材、デジタル人材をもっと迎え入れる必要があります」と語る。
TOAIが募集しているのは、事業の担当者はもちろんのこと、バックエンドの開発を手掛けるIT戦略部とフロントエンドを担うデジタル戦略部の責任者(部長)、さらにはCTOやCIOクラスも含めたIT人材、デジタル人材だ。SIerやSaaSベンダーなどのテック企業での業務経験がある人やフロントエンドの開発経験がある人などを想定していて、現職での年収は最低保証として確約するという。
「TOAIの従業員はプロパーが多いので、豊富な経験を持つIT人材やデジタル人材を外部から積極的に迎えることで社内にスキルやノウハウもためたい」と東原氏は話す。また、IT人材、デジタル人材だけではなく、幹部としてチームを引っ張れるマネジメントクラスの人材やビジネス人材、エンジニア人材まであらゆる職種、レイヤーに対して門戸を開いている。TOAIは中途採用だけではなく、エンジニアを含む新卒採用にも注力していて、本人の希望を最大限尊重すべく、いわゆる「配属ガチャ」はゼロとのことだ。
「本社は京都市にありますが、既に東京オフィスの開設についても2024年度内に予定しており、現在そのための人材を首都圏で幅広く募集している状況です。テレワークや時短勤務などにも柔軟に対応可能です」
応募する人が気になるであろう社風や職場環境について、東原氏は「TOAIはリスクを取ってでもチャレンジする人に報いるカルチャーが根付いています」と胸を張る。
「自ら考えて行動できる人に、チャレンジできる環境と裁量を預けます。事業にはリスクが付きものですが『失敗は成功への第一歩』という考えで、いつも『失敗をしよう』と言っています。私自身も海外事業からの撤退など幾つもの失敗をしていますが、そこで得た経験やネットワークは全て当社の財産になっています」と東原氏は笑顔を見せる。
「人はなぜ歌うのか? 歌うという行為は人間の本能に根差した根源的な欲求を伴う行為であり、人類が言葉を使うよりも前に、歌で愛や喜び、その他の感情を伝えて、共有していたのだと思います。われわれ現代人が今感じているよりも、歌うことの意味や価値は人間にとって大きいのではないでしょうか。私たちの事業活動が歌の可能性を開放し、その価値を最大化する一助となればうれしいと考えています」
東原氏の頭の中には、進化したカラオケの青写真があるのだろう。それを実現するためにテック企業の買収も含め、あらゆる選択肢を検討していると明かす。テクノロジーを活用して業界に変革をもたらさんとするTOAIは、その挑戦の道を共に歩む仲間を求めている。「われこそは」と思う読者は応募してみてはいかがだろうか。
【訂正履歴:2024年12月10日午後6時30分 初出時に「2024年上半期の売上高、利益」としておりましたが、正しくは「2024年5月期」でしたので本文を修正しました。】
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