2024年12月、ウェアラブル型の“AIデバイス”が日本に上陸する。生成AIとボイスレコーダーを組み合わせた米Nicebuildの「PLAUD NotePin」(プラウド ノートピン)だ。本体価格は2万8600円。腕時計やピンバッジのように身に着けて会話を録音し、米OpenAIの大規模言語モデル(LLM)「GPT-4o」と連携して文字起こしや要約ができる。
「会議の議事録を書くのが大変」「現場仕事でメモを取れない」「商談の内容を確実に記録したい」などの悩みを持つビジネスパーソンをサポートするという。12月上旬までに予約注文すれば限定特典をゲットできる。今回は一足先に実機を使ってみたレビューをお届けする。
「文字起こしできるボイスレコーダーでしょ」という考えではこのプロダクトが持つ本来の価値を見誤る。PLAUD NotePinは常にスタンバイ状態で瞬時に音声を記録でき、AIと連携して会話を整理する。新たな発想を生む手伝いをしてくれるパーソナルアシスタントであり、「創造活動支援ツール」と呼ぶべき存在だ。
約25gの小ぶりなカプセル形状で、メーカーは「ウェアラブルAIメモリーカプセル」と表現している。リストバンドなどで身に着けておき、本体のボタンをタッチするだけで会話などの音声情報をキャプチャー可能だ。ボイスレコーダーやスマホアプリを起動して「さあ、録音するぞ」と身構える必要がないので、突発的なシーンに対応しやすい。一瞬のひらめきやアイデアも逃さず捉えられる。
PLAUD NotePinが単なるボイスレコーダーと異なるのは、収録した音声情報の後処置や効率的な管理にAIをフル活用している点だ。これまでは、何度も聞き直したり専用サービスで文字起こしした膨大かつ未整理のテキストの大海から必要な情報をピックアップしたりするのに時間と手間を要した。PLAUD NotePinは、GPT-4oと連携して(1)文字起こし→(2)内容の要約→(3)マインドマップ作成を全て自動で行う。マインドマップはJPEGかMarkdown形式で出力できる。
例えば会議の議事録をPLAUD NotePinに任せればメモ取りから解放されるので、会議に集中して有意義な議論に時間を費やせる。
パッケージには、PLAUD NotePin本体とアクセサリー類が入った高級感漂う2つの化粧箱が納められている。本体側の箱には、自然光を受けて鈍く輝くカプセル形状の金属製のPLAUD NotePinが中央上部に鎮座している。本体は化粧箱にマグネットで固定されていて簡単に取り外せる。
本体にはボタンを押すイラストが印刷された半透明の養生シートが巻かれていて「このボタンを押せば録音が始まる」ということが直感的に理解できる。こういうちょっとしたギミックがユーザー体験の向上に直結する。「クイックスタートガイド」も同梱(どうこん)されているのだが、それを読む以前に使い方を理解している自分がいた。
優れたプロダクトは、パッケージを開封する段階からプロダクトの思想や世界観にユーザーを引き込むためのストーリーが始まっている。PLAUD NotePinは、ユーザーと製品が対面する段階から優れたシナリオが練られていて、良質なユーザー体験に一役買っている。
本体を手に取ってみると、高級感を伴うアルミニウム製の金属ボディーが驚くほど手になじむ。ただし、この次世代型ボイスレコーダーは手に持って録音するのではなく、利用シーンやファッションに合わせて身に着けて利用することを想定している。
重量は10円玉5〜6枚と同じくらい。軽いのでネックストラップやリストバンドで身に着けても身のこなしを邪魔することはない。マグネットピンやクリップを使って服に装着した場合も、軽量かつ小ぶりなボディーは着衣を乱すこともない。うっかりPLAUD NotePinを装着したまま洗濯機に放り込んでしまわないかと心配になったほどだ。
PLAUD NotePinを装着したら、専用のスマホアプリの設定をする。スマホに専用アプリをインストールすると本体が自動的に接続するので難しい操作は要らない。
録音開始――の前に、開発者が製品に込めた思いを紹介しよう。PLAUD NotePinを含む「PLAUD.AI」というブランドは、AIで効率性や生産性を向上させて、豊かな人生を実現することを掲げている。究極のポータブル性を実現した次世代型ボイスレコーダーとして開発されたPLAUD NotePinを使うことで日々の退屈な業務を減らして「自由と時間」という貴重なものを手に入れて、人生により多くの価値をもたらすというのだ。
ビジネス現場や日常生活では膨大な量の音声情報が飛び交い、その中には価値のある情報が多く含まれている。しかし、現場のオペレーションや相手とのコミュニケーションに集中しているとメモを取れず、重要な情報が雲散霧消してしまうこともある。消えゆく情報を整理されたテキストとして利用できれば、ユーザー自身のスキルや秘めたる可能性を最大限に引き出せるはずだ。録音の聞き直しや文字起こしされたテキストの確認といった非効率的な作業から解放されればその時間を創造的な行動に充てられるのだから、その価値は計り知れない。
アイデアをメモするツールとしても活躍する。良いアイデアというのはふとした瞬間に生まれるものだ。しかし、メモでも取らない限りアイデアは忘却のかなたへと消えていく。PLAUD NotePinを常時身に着けていれば、言葉を発するだけでアイデアをテキストで確認できる。
アイデアは言葉でなくてもいい。ミュージシャンなら思い付いたメロディーを鼻歌で収録するなんてこともあり得る。米国の大物ミュージシャン、スティービー・ワンダーは自宅のあちこちにボイスレコーダーを設置しておき、歌詞やフレーズが浮かんだら即座に記録することで数々の名曲を世に送り出してきたという“うわさ”がある。
PLAUD NotePinが届いた翌日、音楽史に関する大学の公開講座で使ってみた。90分間の講義が終わった後、文字起こしや要約をチェック。講師の発音が不明瞭な部分は間違った語句が記録されているが、前後の文章や記憶から類推できる程度の間違いであり実用に十分堪える製品だと確認できた。
録音データはPLAUD NotePin本体に一時保存され、スマホアプリやPC用のWebアプリを経由してGPT-4oによる文字起こしをクラウド処理する仕組みだ。「自動適応」「コンサルティング」「講義」「パネルディスカッション」など23種類の要約テンプレートが用意されていて、録音シーンに合ったものを選ぶことで要約の精度が向上する。筆者は公開講座を録音したので講義テンプレートを指定した。
要約の精度と完成度については十分満足のいく結果だった。最初に「要点」が提示されて、続く「章とトピック」が見出し→小見出し→内容という階層構造でまとめられているので全体像を的確に把握できる。詳細を振り返りたければ文字起こしの該当部分を確認すればいい。ミーティングや商談の前に、過去のやりとりの要約を手早くチェックするのに役立ちそうだ。
驚いたのは、有料のプロプランを契約すると使える機能「Ask AI」(AIに聞く)だ。録音、文字起こしした内容についてAIに自然言語で質問すると、答えを返してくれる。筆者が受けた音楽史に関する講座の内容についてマニアックな質問を投げると、講師が話した内容に沿った的確な回答をしたのにはびっくりした。
自由形式の質問以外に「To-Doを追加」「書式を設定」「主要指標を抽出」「結論を抽出」というメニューが用意されている。主要指標を抽出メニューを選ぶと、数字や日付などに絡んだ項目が表組みで自動生成される。ミーティング中に登場した数字回りの指標とその説明が項目分けされ、時間軸に沿って提示されるのでミーティングの核心的な内容を短時間で把握するのに役立つ。
使ってみた限りでは、バッテリー切れの不安はなかった。公式スペックによると満充電で最大40日間のスタンバイ状態を維持でき、約20時間の連続録音に対応している。充電は約2時間で完了するので、スマートウォッチのような感覚で日常的に使える。
PLAUD NotePinのAI機能について触れておこう。GPT-4oと連携している他、OpenAIの文字起こしAI「Whisper」のアルゴリズムを活用して文字起こしの精度を確保している。
要約テンプレートに応じてGPT-4oと米Anthropicの「Claude 3.5 Sonnet」を使い分けることでLLMの得意、不得意を補完。新たなLLMが登場したら追加する予定があるらしい。要約テンプレートをカスタマイズできる有料のプロプランも準備されており、情報の専門性に応じた要約が可能だ。
本体を購入すれば、毎月300分間まで文字起こしと要約機能を無料で使える。発言者を識別して人物別に文字起こしする機能、音声のトリミング(簡易的な編集)機能、録音ファイルのエクスポート/インポート機能なども無料。PLAUD NotePin以外のレコーダーで録音した音声をインポートすれば各種AI機能を適用できるので便利だ。日本語を含む59カ国語に対応しているのでグローバルなビジネスシーンでも活躍する。
情報セキュリティ面も考慮されている。PLAUD NotePinで録音した音声の中には機密性の高い情報が含まれている場合もあるだろう。AI使用時のセキュリティポリシーを気にする企業が増えてきていることを受けて、PLAUD NotePinは米Googleの情報セキュリティポリシーに準拠して開発したという。AI機能はOpenAIのAPIを採用していて、ユーザーの情報を暗号化して厳重に保護し、AIの学習に使われることもないとしている。
録音データは本体に保存する仕様なので、紛失という物理的なセキュリティリスクも気になる。そんなときはPLAUD NotePin「探す」機能を使うことで早期発見につなげられる。探す機能は2024年11月中に実装予定だ。
PLAUD NotePinを使ったファーストインプレッションは「取材などでかなり有用」な予感だ。約60分の取材を終えて担当者と会話をしているうちに、PLAUD NotePinの文字起こしと要約が完了する。それを確認しながら「記事構成はこうしましょう」「このコメントを引用しますね」などその場で打ち合わせが終わるので非常に便利だ。Web版の「PLAUD AIアプリ」を開けば、PCで文字起こしを確認しながら原稿を執筆できる。原稿執筆に限らず、会議の内容をまとめるなどビジネスシーンで役立ちそうだ。
仕事や生活の中で使ってみると、単なるボイスレコーダーや文字起こしできるWebサービスとは異なり、AIアシスタントと呼ぶにふさわしいツールだと理解できた。
このAIアシスタントは、情報記録という枠を超えて時短や効率化を実現するのはもちろんだが、思考の深化や新たな考察を与えるきっかけを作ることで創造的な生産活動を支えるという価値をもたらすツールでもあると感じた。
PLAUD NotePinをチェック! 予約注文の特典は?
PLAUD NotePinは12月上旬の発売を予定している。本体価格は2万8600円で、カラーバリエーションはグレー、シルバー、パープルの3色だ。
「PLAUD AI文字起こしパッケージ」を購入しておけば、文字起こし時間の上限(無料プランは毎月300分、有料プラン毎月1200分)を超える文字起こしが可能になる。
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提供:Nicebuild LLC.
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2024年11月28日