相当な性能の“モンスターCPU”になった――半導体メーカーであるAMDの担当者がこう表現するのは、同社が2024年10月に発表したサーバー向けCPU「第5世代 AMD EPYC プロセッサー」だ。開発コード名は「Turin」(チューリン)。1サイクル当たりに実行できる命令数(IPC)は、HPCやAI用途では前世代から最大37%向上したという。
CPUの性能が飛躍的に向上している背景には、ビジネスを支えるITシステムの基盤であるサーバーに高い処理能力が求められていることがある。サーバーの性能を高めてビジネスの速度を上げる、CPUなどのITリソースを最大限に生かすためにサーバー仮想化を取り入れるといった選択肢が注目されている。
そうしたニーズに応えることで市場シェアを急速に伸ばしているサーバー向けCPUが「AMD EPYC プロセッサー」シリーズだ。高性能化するCPUとそれを搭載するサーバーのトレンドを知れば、ビジネスへの適用方法が見えてくる。ITインフラの現在地を、日本AMDとデル・テクノロジーズに聞いた。
「AMDのCPUで最初に手応えを感じたのは、『AMD Opteron』を搭載したサーバーが強烈な引き合いを集めた2008年ごろです」と話すのは、デル・テクノロジーズの小林宙洋氏だ。デスクトップ仮想化(VDI)のニーズを満たすにはコア数が多いCPUが適している。当時、AMD Opteronは最大16コアを搭載できるので顧客から好評だったという。
Opteronは、多コアによる処理能力の高さによってHPC領域でも高い支持を獲得。しかし、他の半導体メーカーが台頭したことでサーバー市場におけるAMDの存在感が薄れてしまう。
そんな状況を覆したのが、2017年に発表されたAMD EPYC プロセッサーだ。微細化技術やパッケージング技術を駆使して多数のコアを集約するアプローチを極めた他、ロードマップ通りに新製品を発売し続けることで企業の導入計画が立てやすくなり「AMDのCPUが再び評価され、x86サーバー市場のシェアは2024年時点で30%を超えます」(小林氏)。
AMD EPYCシリーズの最新版である第5世代のTurinについて、日本AMDの竹中俊雄氏は次のように説明する。
「プロセス技術の進化によって最大192コアの搭載を実現したTurinは、まさに『モンスターCPU』です。約4センチ四方の小さなチップにコアチップやIOミニダイが整然と並ぶ様子は、これまで培ってきた技術の集大成と言えます」
エネルギーパフォーマンスの高さがTurinの大きな強みだ。Turinが採用するCPUアーキテクチャ「Zen5」は、SoCを極めて先進化した3ナノメートル、4ナノメートルのプロセスで製造することで、消費電力の多くを占めるSoCのエネルギーパフォーマンス効率を高めた。
また、SoCを個別化して製造し、性能やエネルギー効率の異なるSoCチップを組み合わせてパッケージする「チップレット」方式が特徴の一つだ。多様なCPUポートフォリオを歩留まりよく、適切なコストで提供できるので、顧客ごとに異なる需要やデータセンターの要件に合わせたコンピューティングリソースの提供が可能になる。
Turinは用途ごとの区分を明確にし、電力効率を高めてコア数を多く提供する「スケールアウト型」とCPU性能を重視した従来型の「スケールアップ型」の2種類を用意している。用途や消費電力の最適化などを踏まえて検討するのがいいだろう。
Turinを語る上で忘れてはならないキーワードが「オープン」だ。Turinを採用したAMDサーバーを導入する際、利用しているユーザーアプリケーションを変更する必要がないと竹中氏は話して、次のように続ける。
「『インテル Xeon プロセッサー』の環境に特化したチューニングを施しているユーザー環境も想定しています。例えば、拡張命令セット『AVX-512』を利用している場合、TurinはAVX512を512bit演算のままサポートしているのでなんら変更することなくTurinの環境に移行できます。ベンダーロックインに陥ることなく、オープンなプラットフォーム選択が可能となります」
セキュリティ機能も強化されている。CPUに実装したセキュリティ機能セット「AMD Infinity Guard」の中で、CPUパーティショニング時の機密性と認証をサポートする「Secure Boot」や悪意あるハイパーバイザーからITシステムを保護する「SEV-Secure Nested Pages」などの機能を提供している。Turinには、セキュリティ保護を外部デバイスに拡張する機能「Trusted I/O」を加えるという。
サーバーの“頭脳”としてAMD EPYCシリーズを搭載した製品を展開しているデル・テクノロジーズは、AMD専属のチームを作って技術面、営業面で両社の連携を強化している。Turinの発表を受けてすぐ、デル・テクノロジーズは同社のサーバーブランド「Dell PowerEdgeサーバー」でTurin搭載サーバー5製品を発表した。
Turinを搭載するだけなら既存製品を使うことも可能だ。しかし、デル・テクノロジーズはTurinの性能を最大限に引き出すためにTurin専用のシステムボードを設計。「Turin on Turin」として打ち出している。同社の福田陽佑氏は次のように紹介する。
「AMD EPYCシリーズの強みは、高密度で集約された多数のコアによる処理能力の高さです。Turinはサーバー統合時の集約率が高いこと、HPCなどのハイパフォーマンス用途での演算速度が高いことなどからリプレースの相談が増えています。Turin on Turinによって、お客さまの期待に高いレベルで応えられます」
Dell PowerEdgeサーバーとTurinを掛け合わせることで「サーバーの発熱問題の解決を強力にサポートできる」と小林氏は解説する。デル・テクノロジーズの武器は、長年培ったノウハウに裏打ちされたサーバーの空冷技術だ。
CPU性能の向上に伴うTDP(Thermal Design Power:設計上想定される最大放熱量や発熱量、消費電力)の増大によって、既存の単純な空冷に限界が見えはじめた。これを見据えていたデル・テクノロジーズは、2017年の第14世代Dell PowerEdgeサーバー販売に際して「マルチベクタークーリング」を開発して特許を取得。各冷却ファンを自動チューニング/コントロールし、PCIeスロットごとに内部コンポーネントを冷やし分けできる機能を搭載した。2021年に販売を開始した第15世代では、サーバー内の排熱効率を最大化するために、左右均等な内部レイアウトの「バランスド・エアフロー設計」に移行。2023年にリリースした第16世代では、取り込む空気の量を前モデルから最大15%増やした「Smart Flowシャーシ」という新しいシャーシを製品仕様に投入。これによって、PowerEdgeサーバーは1Uラック型サーバーであるにもかかわらず、高TDPのCPUを空冷で実装できている。
独自の冷却イノベーションに力を入れているDell PowerEdgeサーバーだからこそ、電力効率よくプロセッサーの性能や機能を最大化できる。それが顧客のIT環境のパフォーマンス向上や電力課題の解決に寄与している。
「HPCのような大規模な演算が必要な場面では、CPUの発熱がパフォーマンスの低下や予期せぬシステムダウンにつながります。液体で冷却する水冷方式は、配管工事や追加費用が必要なので導入をためらうケースがあります。空冷技術を磨くことで高い処理能力を維持しつつサーバーの導入を容易にすることが、サーバーベンダーである当社の責務だと考えています」(福田氏)
電力効率が高いTurinと、効果的な空冷技術を搭載したDell PowerEdgeサーバーを使うことで環境負荷を抑えられる。さらに、電子機器が環境に配慮して製造されていることを示す非営利団体Global Electronics Councilの認証制度「EPEAT」において、Dell PowerEdgeサーバーは日本での利用で唯一「シルバー」の格付けを獲得している。
高性能なTurinはAI用途でも活躍すると踏んだデル・テクノロジーズは、AIニーズに応えられるサーバー「PowerEdge XE7745」を2025年1月に発売する。192コアのTurinを2基搭載することで最大384コアを実現。最大で8基のダブルワイドGPUまたは最大16基のシングルワイドGPUを搭載でき、これは前世代機の2倍に当たる。
AI処理の性能はGPUが左右すると考えがちだ。しかし、GPUで実行するタスクの整理やデータのキャリブレーションなどをCPUが担うことを踏まえて竹中氏は「CPUの能力によってGPUの処理効率が左右されます」と解説する。
「あるCPUではGPUが8基必要だった処理が、AMD EPYC プロセッサーであれば7基で済んだケースがあります。GPUが1基当たり数百万円以上することもある中、Turinを使うことでコストを削減できます」
AI処理の中でも低レイテンシーでの逐次処理など、GPUよりもCPUの方が適したものも存在するという。PowerEdge XE7745は圧倒的なコア数によってAI処理をカバーできる。
AI領域におけるデル・テクノロジーズの強みはハードウェアだけではない。生成AIインフラの導入をサポートする技術スタック「Dell AI Factory」を展開している。AIに不可欠な「データ」、AIの活用を支える「サービス」、オープンソースソフトウェアを含む「オープンエコシステム」、AIシステムの基盤になる「インフラ」を事前検証済みの構成で用意。AIに必要なハードウェアからソフトウェアまで一気通貫で提供し、使いこなすための知見やノウハウまで含めて総合的に提供する。専門スタッフが伴走するプロフェッショナルサービスも利用できる。同社の新地俊一氏は次のように説明する。
「Dell AI Factoryの内容を充実させているさなかです。当社とパートナー企業がタッグを組んで提案することで、AIの活用をあらゆる面から支援します」(新地氏)
デル・テクノロジーズは、サーバーの導入を検討する企業に検証用の評価機を貸し出している。竹中氏は「検証したお客さまの約90%が導入をご決断なさっています。AMD EPYCシリーズを試すことで性能や運用のメリットを実感できます」として、AMDとデル・テクノロジーズの二人三脚でAMD EPYCシリーズの良さを伝えていきたいと話す。
評価機の貸し出しは、多様なニーズに応えられる柔軟なメニューを用意している。デル・テクノロジーズの本社(東京・大手町)にある検証センター「Customer Solution Center」に専門のスタッフに相談できる場を設けている他、AMD EPYCシリーズの特徴を伝えるイベントも随時開催。懇親会を兼ねた「AMD BAR」や宮崎県にあるカスタマーセンターに顧客を招いてAMD EPYCシリーズの魅力を紹介する「宮崎キャンプ」などが好評だという。
ビジネスが高度化するにつれて、サーバーの処理能力に対する要求も高まっている。Dell PowerEdgeサーバーは、日経BPが実施した「日経コンピュータ 顧客満足度調査2024-2025」のPCサーバー部門で「信頼性」「運用性」「サポート」「性能・機能」「コスト」の項目全てでトップスコアを獲得。そんなサーバーにTurinを組み合わせる選択肢があるということを知ってほしい。そしてAMDの最新情報を入手したり実機を使った検証をしたりするために、デル・テクノロジーズに相談してみてはいかがだろうか。
Dell de AI(でるであい)とは──
「AIをビジネスで活用する」──そう言い表すのは簡単です。しかし、組織にとって本当に価値のあるアクションへ落とし込むには、考えるべきことがあまりに多すぎます。誰に相談すればいいのか、どうすれば成果を生み出せるのか。「Dell de AI “デル邂逅(であい)”」は、そんな悩みを持つ企業や組織にポジティブな出会いや思いもよらぬうれしい発見──「Serendipity(セレンディピティ)」が生まれることを目指した情報発信ポータル(https://www.itmedia.co.jp/news/special/bz211007/)です。
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