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「パズドラ」運営会社社長の3億円報酬、物言う株主が一刀両断 「報酬だけは任天堂並み」

» 2025年02月06日 18時22分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 旧村上ファンドの元幹部が率いるアクティビスト(物言う株主)のストラテジックキャピタル(SC、東京都)がスマートフォン向けゲーム「パズル&ドラゴンズ」などを展開するガンホー・オンライン・エンターテイメントに対し、森下一喜社長の報酬減額などを求める株主提案をしている。

 ガンホー単体では「パズドラ」以降目立ったヒット作がなく、営業利益が減少傾向にある中で、社長の報酬が大幅に増加したことを問題視。「株式の非公開化が最善の選択肢」として、3月に開催予定の定時株主総会に向け、経営の見直しを迫っている。

photo パズドラの画面

 SCは1月30日、ガンホー株の約5.4%を保有していると主張し、「ガンホー再起に向けた抜本的改革のために」とする特集サイトを開設した。

 特集サイトでは、過去10年で時価総額が約8割、営業利益が約7割下落したにも関わらず、森下社長の報酬が1億2000万円から3億4000万円に大幅増となったことに疑問を呈した。

 SCは社長の報酬と利益水準について、ゲーム大手各社と比較。社長の報酬について「通常、ガンホーは任天堂と比較される規模の会社ではないが、経営トップの報酬水準は任天堂に匹敵」「社長の報酬では肩を並べているが、ガンホーの利益は任天堂の10分の1にも満たない」などと厳しく言及した。2023年12月期から導入された業績連動報酬も、その他の報酬とは別枠で追加されただけで、実態は基本報酬の増額であると非難。「ちぐはぐな報酬制度」として、抜本的に見直すよう求めた。

3つの「ヒット作ゼロ」指摘

 業績が低迷している理由として、「ディズニー」や「妖怪ウォッチ」などの人気キャラクターと連携しても、ヒット作を生み出すことができず、「パズドラ以外の約20タイトルは全て空振り」と一刀両断。「『パズドラ以外』ヒット作ゼロ」、「『1000億円超』かけてヒット作ゼロ」、「『13年』かけてヒット作ゼロ」と畳みかけ、「ゲーム開発に失敗はつきものだが、13年間の空振りは『ゲーム開発が難しいから』だけでは説明できない」としている。

 「『世界一のエンターテインメント企業』を目指す」という社長メッセージに対しても、「森下社長の報酬だけは世界屈指のゲーム会社である任天堂に肩を並べるほどになった」と皮肉った。

photo 「パズル&ドラゴンズ」提供開始5年を記念したイベントに登場したガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜社長(左)=2017年2月、東京都港区(高橋寛次撮影)

 SCはパズドラの成功で、「株式市場からの資金調達は不要な財務状況」と分析。知名度や社会的信用の獲得など、上場効果は十分と指摘している。事業リスクを低下させ、ユーザーとの接点を拡大するために、パートナー企業を見つけて、株式を非公開化するよう求めた。社長の報酬については、高水準にある基本報酬の理由を開示し、業績連動報酬の計算方法を見直しや株価連動報酬の導入などを提案している。

「怠慢経営」と痛烈批判

 ガンホーは12年に「パズドラ」のサービスを開始。パズドラ以前は64億円だった手元資金は、23年12月末で1400億円を確保している。SCは「今後10年以上ヒット作が出なくても全く問題ない」水準と評価し、「膨張した手元資金は適切な緊張感さえ奪う」と指摘。「ゲーム会社を言い訳にした怠慢経営」と批判した。株価上昇を促進させる株主還元策のひとつである自己株式の取得についても、配当金の節約にすぎないとし、178億円相当の配当を要求。「ガンホーは13年間沈み続けている。ガンホーに必要なのは、このまま沈み続けても大丈夫な手元資金ではなく、再び浮上するためのきっかけ」と強調している。

photo ブームとなったパズドラは家庭用ゲーム機にも進出した=2013年9月、千葉市の幕張メッセ

 ガンホーの23年12月期の有価証券報告書によると、森下社長の報酬総額は3億4100万円。内訳は固定報酬1億5400万円、業績連動報酬7600万円、株式報酬型ストック・オプション8200万円など。同社は「株主総会で決議された報酬限度額の範囲内において、当社全体の業績・経営環境等を踏まえて、各取締役の役位や職責等を考慮して検討のうえ決定しております」と説明している。

 SCの株主提案への対応について、ガンホーのIR担当者は「受領した提案書の内容を検討している」としている。今月14日に24年12月期の連結決算を発表する予定だ。

 同社は、韓国の人気漫画を題材にした「ラグナロク」シリーズを東南アジアでヒットさせた韓国子会社のグラビティが収益の柱となっている。10年以上屋台骨を支えてきた「パズドラ」に陰りが見え始める中で、転換期を迎えている。(高木克聡)

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