2025年4月13日、184日間に及ぶ「2025年日本国際博覧会」(以下、大阪・関西万博)が開幕した。「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマの下、多くの先端技術が集結する中で特にビジネスパーソンに注目してもらいたいのが、総務省が期間限定で実施する催事「Beyond 5G ready ショーケース」だ。
Beyond 5Gは、5Gのさらに先にある次世代の情報通信基盤で、2030年代の暮らしを支える重要なインフラとして、多様な産業や社会活動の基盤になることが期待されている。従来の移動通信(無線)の延長上にある技術ではなく、有線・無線、陸・海・空・宇宙等を包含した統合的なネットワークを指し、現在、産官学で研究開発が進んでいる。その取り組みの「現在地」であり「最前線」に触れられるのがBeyond 5G ready ショーケースだ。
いったい、どのような内容なのか? 総務省が描くBeyond 5Gの戦略を、社会への影響と共に探る。
Beyond 5G ready ショーケースの開催場所は、万博会場内にある「EXPOメッセ『WASSE』(North)」。5月26日〜6月3日の期間限定開催だが、10月13日までは「バーチャル催事」も用意されており、現地に行けなくてもWebで会場催事と同じコンテンツの簡易版を体験できる。
会場内のゾーンは3つある。会場の入り口側に位置するのは、ZONE 1の「プロローグシアター」だ。今日まで通信技術が歩んできた歴史から未来に向けた展望までを180度ワイドシアターで演出している。「生活者目線」で制作されたというコンテンツは、Beyond 5Gをはじめとした通信技術を身近に感じさせ、理解を促す内容になっている。
ZONE 2は「未来都市エリア+技術体験ブース」。Beyond 5Gによって、社会やわれわれの生活がどのように進化するのか、没入型の体験コンテンツで楽しめる。
ZONE 2には5つのエリアがあり、それぞれ「未来の○○」というテーマが付いたコンテンツ(体験ブース)に分かれている。
CONTENT 01:「未来のしごと」リモートムーンオペレーション
VRゴーグルを着用し、地球から月面基地にいるロボットを遠隔操作する月面作業を体験できる。もちろん、月面との距離のためにリアルタイムの通信は実現不可能だが、超高速・大容量の光衛星通信やAIなども活用することで、あたかもリアルタイムであるかのように遠隔操作ができるようになる。これがBeyond 5Gによって実現する――そんな未来を一足先にのぞけるブースだ。
地球にいながら月面ロボットを操作できれば、建設作業や資源採掘の効率化につながる。その結果、月への長期滞在が可能となり、宇宙開発の進展に期待できたり地球の資源不足の解決に貢献できたりする未来が見えてくる。
CONTENT 02:「未来のあんしん」HAPSリカバリー
地上ではなく成層圏から無線通信サービスを提供する通信システムおよびプラットフォーム「High Altitude Platform Station」(以下、HAPS:ハップス)。これを使い、ある地域で災害が起こったというシチュエーションの下、被災地における通信の復旧を行うコンテンツを体験できる。
HAPSは「空飛ぶ基地局」と呼ばれ、無人飛行体を使って成層圏から通信をカバーできる。HAPSによって上空や海上エリアのコネクティビティーを強化すれば、災害時の通信の復旧だけではなくドローン配送の高度化や海上物流の効率化を図ることもできるだろう。
CONTENT 03:「未来のしぜん」オーシャンクリーニング
Beyond 5Gが実現すれば、陸地から海中ロボットを遠隔操作することも可能になるといわれている。そんな未来を体験できるのが「オーシャンクリーニング」だ。海中ロボットを遠隔操作して、海洋環境維持のための作業ができる。
現在はデータの遅延や通信切断によってままならない海中ロボットの遠隔操作を可能とすることで、海洋汚染や生態系のモニタリング、海洋資源の探索や採掘などの高度化に期待が寄せられている。
ZONE 2には他にも、以下のブースがある。どれも大人から子どもまで楽しめる工夫が凝らされている。
CONTENT 04:「未来のからだ」バーチャルピッチングルーム
「感覚」にアプローチするブース。触覚グローブを用いて、仮想空間上でAIアバターや海外の人とのキャッチボールを体験できる。Beyond 5Gによって、感覚の情報までも伝達できる未来も近い。
CONTENT 05:「未来のくらし」クロスコネクトシティ
現実空間から集めたさまざまなデータを基に、サイバー空間で現実空間を再現するデジタルツインを使って、街の課題解決にチャレンジする。サイバー空間で多様な産業システムを組み合わせて新しいサービスを構築するというシミュレーションを体験できる。
まさに次世代の社会、生活を築く基盤となるBeyond 5Gだが、その研究開発はどこまで進んでいるのか? その現在地に触れられるのがZONE 3だ。ZONE 3では、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)に設置している基金を活用した事業を利用して進む、研究開発等の「最前線」をパネルや映像、実機の展示で知ることができる。
NICTや民間企業がさまざまな研究に取り組んでいるが、大阪・関西万博にて展示されるのは、その中の10テーマだ。
NICTは6つのテーマを展示する。人流やインフラの状況を分析して無線基地局の省電力化を目指す技術の展示「AIとNTNを活用した基地局の省電力化技術」、無線通信と時空間同期技術を駆使して遠隔地の事象をサイバー空間で再現・観測する技術を紹介する展示「今だけ・ここだけ・あなただけ − デジタルツインサービス実現技術 −」、携帯電話の電波が届かない山奥や災害現場でもドローンを安全に運用できるようにする通信技術を紹介する展示「携帯電話圏外でも見通し外でドローンを制御できる自営網通信技術」などがある。
その他、多くのビジネスパーソンにとって身近な課題であるサイバー攻撃をリアルタイムに観測・分析するシステム「NICTER」について解説した展示や、衛星通信などに影響を与える太陽フレアなどの「宇宙天気」の把握や予報を行う技術の展示もあり、いずれもBeyond 5Gがどのように社会やビジネスを変革するのかを具体的に示す場になっている。
展示を通して未来の技術トレンドを理解し、それをどのように自社の事業に生かすかという視点を得る上でも貴重な機会になるだろう。
民間企業や大学による展示も豊富だ。複数のクラウドセンターを同時利用したり接続先を柔軟に切り替えたりして、複数事業者間の光ネットワーク接続の共通基盤となる「オール光ネットワーク」(詳細は後述)や、海中・水中における無線通信の研究、遠隔地作業を支援する技術の展示もあり、産官学によるさまざまな研究動向をまとめて把握できる。
前述した通り、Beyond 5Gは5Gの延長線ではなく、さらに先にある次世代の情報通信基盤であり、有線・無線、陸・海・空、果ては宇宙までを含んだ包括的なネットワークを意味している。
ただ、通信に求められるレベルは日増しに高まっている。特に影響が大きいのは「AI」の台頭だ。ここ数年でAIの開発や一般利用は爆発的に増えている。AIの開発や運用には大規模なデータセンターが必要であり、それに伴って電力消費は増大。同時に、通信環境の高度化が急務になった。こうした背景から、低遅延、高信頼、低消費電力であるBeyond 5Gが待望されている。
総務省は、こうした背景を踏まえて2020年にBeyond 5Gの実現に関する取り組みに着手している。その後、関連法の整備とともに、2024年8月には具体的な戦略として「AI社会を支える次世代情報通信基盤の実現に向けた戦略 − Beyond 5G推進戦略2.0 −」を公表。Beyond 5Gの実現に向けて各種政策の推進に取り組んでいる。
「Beyond 5Gのある未来」を見て、触れて、より身近に感じられるBeyond 5G ready ショーケースは、その取り組みの現時点での総括といえるだろう。
総務省が最終的に目指すのは、2030年代に本格的に到来するAI社会を支えるデジタルインフラの構築だ。その実現に向けた重点技術分野として「オール光ネットワーク」「非地上系ネットワーク」「無線アクセスネットワーク」を掲げる。
オール光ネットワークは、基地局やデータセンター、全国の小規模な事業所までのあらゆる通信経路を光信号(光通信技術)で完結させることを指す。これを次世代通信インフラとして整備することを目指し、オール光ネットワークを整備するための関連商品の開発支援や実証環境の構築を通して2030年ごろからの本格導入を見込む。
非地上系ネットワークは、HAPSなどが該当し、HAPSの国内導入に必要な制度整備を2026年中に行うことを目指している。無線アクセスネットワーク分野と併せた複層的なネットワークにより、非居住地域も含めた「つながる環境」や「産業のワイヤレス化」を実現する考えだ。
一連の取り組みは、Beyond 5Gの技術基盤を整備し、その実現を加速するためのロードマップになっている。これらが実を結べば、現在よりも小規模化かつ分散化が進むとされるAIやデータセンター、IoTなどあらゆるものが超高速につながるだけでなく、低電力で環境負荷の少ない通信環境が現実となる。
Beyond 5Gのある未来は、もう間近。大阪・関西万博のBeyond 5G ready ショーケースで、未来の通信が描く新たな可能性に触れてみてはいかがだろうか。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2025年5月16日