IT製品のレビュープラットフォーム「ITreview」を運営するアイティクラウドが、ベンダーを対象としたユーザー会「ITreview User Conference 2025〜VOICE〜」を開催(2025年6月26日)した。ITreviewを利用して自社、顧客ともに成功している企業の表彰式の他、米国のレビューサイト「G2.com」のシニアマネジャーとアイティクラウドのCPO(最高製品責任者)とのスペシャル対談、ITreviewの今後のロードマップ紹介など盛りだくさんのステージが用意された。
オープニングトークには、アイティクラウドの黒野源太氏(代表取締役社長 兼 CEO)が登壇。多数のSaaSから最適な製品を選ぶにはレビューが不可欠と考え、2018年に米国のレビューサイト「G2.com」と提携してITreviewを開始した経緯を説明した。
黒野氏は、「今日のカンファレンスのテーマはAI」だと強調。5月にシリコンバレーで開催された、全米のSaaSプレイヤーが勢ぞろいするカンファレンス「SaaStr」でも、世界のSaaSがAIを組み込む潮流を目の当たりにしたと話し、ITreviewもAI活用を促進する方針を明らかにした。
次に、ITreviewとのパートナーシップを担当するG2.comのKai Mitsushio氏とアイティクラウドの新木啓悟氏による対談が行われた。
左:Kai Mitsushio氏(G2.com Investor Alliances/ Japan Partnerships Senior Manager)/右:新木啓悟氏(アイティクラウド 取締役 CPO)G2.comは2012年創業のSaaSレビューサイトで、約15万製品を掲載している。年間訪問者数は1億人以上、累計300万件のレビューが集まるとしており、Amazon Web ServicesやMicrosoft Azureのマーケットプレースでも参照できることからSaaS購入の情報源として英語圏で大きな存在感を持っている。
Kai氏よると、特にここ2〜3年、SaaS業界ではROI(投資対効果)を厳しく分析する傾向が強まった。G2.comのインテントデータの有無でROIの計測方法を分け、トラフィックの増加率やコンバージョン率などを細かく分析するそうだ。G2.com経由のトラフィックとリード獲得で、約2.6億円のパイプラインを創出した事例もあるという。
新木氏から、企業の生成AIの活用状況について尋ねられたKai氏は、「ここ1年半で最も変化があった分野」だと発言。企業がSaaS購入時にリサーチを始める際に影響を受けるのは「生成AIチャットツール」で、かつその結果をうのみにせずレビューサイトやベンダーのWebサイトで確認する行動も見られることが、同社の調査で分かったと説明した。
Kai氏は「SEO(検索エンジン最適化)からGEO(生成AIエンジン最適化)に時代が変わっても、カスタマーレビューは重要なコンテンツ」だと主張した。新木氏も「カスタマーレビュー活用に取り組むことで、生成AI側からも情報が読み込まれやすくなり、自社プロダクトのPRに貢献する」との考えを述べた。
Kai氏は、G2.comが毎年公表している調査レポート「Buyer Behavior Report」の2025年版にも触れた。同レポートでは「AI now stands for Always Included(AIは今や常に含まれるものである)」という言葉が掲げられており、SaaSの購買プロセスにおいてAIが関わるのが当たり前になった現状を語った。
「SaaS企業が今やるべきことは、『AIファースト』へのシフトだ。G2.comも新たに『ai.g2.com』をローンチし、AIチャットbotとの対話だけで最適な製品を見つけたり、レコメンデーションを受けたりできる環境を整えた。AI時代の新しいG2.comに、今後も注目してほしい」(Kai氏)
ITreviewの今後については、アイティクラウドの辻健太郎氏が説明した。辻氏が明かしたのは、AIを主軸に据えた新戦略と、ベンダーの販促活動を劇的に変える新機能のロードマップだ。
現在のITreviewは、ユーザー企業とベンダーの双方向プラットフォームになっている。同社はこれを、今期の「AIエージェント導入」と、1年後の「データとAIが提案する世界の構築」によって進化させるとし、最終的にはアイティクラウドが提供する全サービスが連動するエコシステムの構築を目指すという。
この構想の第一歩として、SaaSとAIの情報を集約したハブページ「ITreview.ai」がイベント当日に公開された。これは主にユーザー企業向けのサービスだ。今後は、ここを基点に各製品ページやカテゴリーページにもAI関連情報が展開され、ユーザーはAIで解決できる課題(テキスト自動生成やデータ解析など)を軸に製品を比較、検討できるようになる。
ベンダー向けには、AIエージェント「レビー」が販促活動を強力に支援する2つの新機能が発表された。1つ目の「レコメンドAI」は、レビューキャンペーンの作成をレビーが基本からサポートする機能だ。辻氏は詳細について「製品改善のレビューを集めたい場合など、レビーが適切なキャンペーンを提案するため、担当者が考える手間なく迅速に施策を打てる」と語った。
2つ目は「コンテンツAI」。これはITreview上のレビューや比較データ、満足度データなどを活用し、レビーが販促物の作成を支援するものだ。ホワイトペーパーの作成には数週間かかることも珍しくなかったが、「コンテンツAIを使えば10分で完了する」(辻氏)未来が待っているという。
コンテンツAIは現在開発中で、辻氏は「第1弾として2025年10月にホワイトペーパーとチラシの作成機能を、11月にバナー広告の作成機能をリリースする予定」だとスケジュールを明かした。
「当社は『IT選びに、革新と確信を』をミッションに掲げており、今後はAIとともにこれを深化させる。これからも皆さんと一緒に、ITreviewでSaaS製品のPRや販促を盛り上げていきたい」(辻氏)
イベント後半は、ITreviewを利用して自社、顧客ともに成功している企業を「Customer Voice Leaders」として選定する表彰式が行われた。主な受賞企業は以下の通り。
■Customer Voice Leaders 2025 受賞企業
| 表彰部門 | 受賞企業 |
|---|---|
| レビュー収集部門 | Sky、インプリム、ファブリカコミュニケーションズ |
| コンテンツ活用部門 | DIGGLE、ディーエスブランド、内田洋行ITソリューションズ、シムトップス |
| インテントデータ活用部門 | エイトレッド、ディーオーエス |
| カスタマーサクセス活用部門 | グルービーモバイル |
| プロダクト改善活用 | SCSK |
| エグゼクティブ活用部門 | ネクプロ |
コンテンツ活用部門で受賞したDIGGLEは、予算管理システムなどをプロダクトに持つSaaS企業だ。同社の増田慧氏は、「当社は展示会に年間20回ほど出展している」と説明し、数秒で目をとめてもらう必要がある展示会においては「ITreview Grid※や比較グラフを用いたバナーが非常に強力なPRアイテムになっている」と語った。
※ITreview独自のアルゴリズムで、掲載製品をカテゴリーごとにマップ化したもの。
インテントデータ活用部門で受賞したディーオーエスの古賀みのり氏は、インテントデータを活用した営業活動を紹介した。「製品比較をしたユーザーや、直近30日以内にアクセスしているユーザーの情報をSFAに自動連携させ、自社のハウスリストと突き合わせてアプローチしている。ハウスリストになかったお客さまにもアプローチできるようになり、アポ取得率が上がった。営業活動の後押しをするツールとして今後も活用したい」と展望を話した。
表彰式の後は、シムトップスの前川泰宏氏、エイトレッドの黒田純平氏と高橋脩氏をゲストに招いた事例トークセッションが行われた。レビューデータの生成AI活用やインテントデータ実践内容が紹介された。
左:前川泰宏氏(シムトップス 企画・マーケティンググループ チームリーダー)/中央:高橋脩氏(エイトレッド マーケティング部アライアンス担当 課長代理)/右:黒田純平氏(エイトレッド マーケティング部マーケティンググループ グループ長)シムトップスは、製造業などで使われている日報や品質点検、不具合報告といった紙帳票を、タブレット端末でデジタル化するツール「i-Reporter」を提供している。前川氏は、ITreviewのデータを利用した活用事例2つを紹介した。
1つ目は、ITreviewから出力したレビューのCSVデータをChatGPTやGeminiのディープリサーチ機能に入力し、製品の改善点や導入障壁、効果的なセールスワードなどを分析してレポートを作成する活用法だ。これによって手作業での集計や製品の課題特定が効率化された他、「セットアップが大変」といった自社製品を導入する際の障壁をデータで可視化したという。
2つ目は、レビューデータをRAGとして使う方法。ITreviewが持つ企業規模や業種などのデータとレビューを整理した上で、AI開発環境「Cursor」を用いて具体的な指示を投げかけるとAIが適した回答を瞬時に生成する。前川氏は、自身が“秘伝のタレ”と呼ぶ独自のナレッジとレビューデータを組み合わせたRAGによって「ターゲットに最適化したメルマガ作成の指示なども全自動化できる」と明かした。AIがターゲットに最適化して作成したメルマガは、開封率が平均10%から30%になったという。
エイトレッドはワークフローシステム専門の開発ベンダーで、中小企業向けの「X-point Cloud」、大手・中堅企業向けの「AgileWorks」を提供している。セッションでは、ITreviewのインテントデータを活用したABM(アカウントベースドマーケティング)の実践内容を披露した。
同社は、「ITreviewのインテントデータ(セカンドパーティーデータ)と、自社サイトのアクセスログ(ファーストパーティーデータ)をスプレッドシート上で組み合わせ、確度の高い見込み客を可視化している」(高橋氏)と話す。ITreviewへの訪問数が多い企業や両方のデータで接点がある企業に優先的にアプローチして、商談化の成功率を大幅に高めているとした。
高橋氏は、この戦略的なアプローチにより「ターゲットとする大手企業において、インテントデータ経由で毎月5〜10件以上の新規商談を創出している」と成果を説明。この手法はニーズが明確な相手にアプローチできるため、インサイドセールス担当者の精神的負担を減らし、スムーズな商談獲得につながるという。
最後に両社は「ITreviewを活用する理由」を次のように語った。
「マス的なデータが何でも出てくる世の中になってきているため、相対的に『N=1のレビュー』の価値が上がっている。レビューは、獲得して初めて扱える。ITreviewは、今後ますます欠かせない存在になるはずだ」(前川氏)
「Googleの検索結果でAIオーバービューが出るようになり、各社の流入数は減っているはずだ。いかに自社のサイト以外で接点を持つかは今後重要で、レビューというコンテンツが蓄積されているITreviewは新たな接点を持てる貴重な場だ。今後も多様な機能をマーケティングに生かしたい」(黒田氏)
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2025年7月25日