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「鬼滅」も被害 違法アップロード「映画泥棒」にホワイトハッカーで対抗 84サイト閉鎖

» 2025年08月19日 12時04分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 7月18日に全国で上映開始されたアニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座(あかざ)再来」が異例の速さで興行収入を伸ばす中、映画館で盗撮したとみられる本編映像が海外を中心に大量に拡散している。日本製アニメの市場が急成長を遂げる陰で、インターネット上に違法にアップロードされる「海賊版」の被害も深刻化。専門知識を持った「ホワイトハッカー」が追跡調査を行っているが、違法行為の手口も巧妙化し、「いたちごっこ」の状況だ。

「本編映像を盗撮した映像がインターネット上に見られます」

 映画の上映開始から1週間後の7月25日、「鬼滅の刃」の公式サイト上に違法アップロードに対する注意喚起が掲載された。日本語、英語、中国語で「匿名の投稿であってもアップロード元は特定可能」として刑事告訴を含む厳正な対処を行うと警告。8月1日にも公式SNSで同様のメッセージを発信した。

 しかし、違法アップロードは止まる気配がない。SNSのXや動画投稿アプリ「TikTok」に本編から切り抜いた映像が投稿されているだけでなく、米国や中国のほか欧州、中東などさまざまな国の動画サイトで全編がアップロードされている。各言語の字幕まで付けられており、再生回数が10万回を超えているものがいくつも見つかる状態だ。

 コンテンツ海外流通促進機構(CODA、東京)によると、日本の映画やアニメ、漫画、ゲームなどが違法アップロードで受けた被害額は、22年の推計で、19年の約5倍の年間約1兆9500億円〜2兆2020億円に上る。CODAの担当者は「現在はさらに被害額が大きくなっている可能性が高い。日本のコンテンツの人気が高まるにつれて違法アップロードも増えてしまう」と話す。

 CODAは21年からアニメや漫画などの権利者に代わり、海外の現地の捜査機関と連携して海賊版サイトを閉鎖に追い込む「国際執行プロジェクト」を実施している。しかし、海賊版サイトの運営者は本人確認の甘い海外のサーバーを使ったり、ドメインを頻繁に変更したりすることで特定を防いでおり、摘発は容易ではない。

 そこで活躍するのが、サイバー犯罪に対抗する専門知識を持ったホワイトハッカーだ。

 「日本ハッカー協会」の杉浦隆幸代表理事は「サイトをつくるにはお金がかかるので、どこかに社会的な接点がある」と説明する。公開情報を収集・分析する「オシント」という手法を使い、ドメイン取得などのサイト開設に必要な手続きを追跡し、運営者を特定するという。

 海賊版サイトは広告収入を目的に運営されているケースが多く、集客のためにデザイナーを雇ってサイトを制作していることもある。「隙がある運営者は意外と多い」と杉浦氏は話す。同協会はCODAの依頼を受けると、所属するハッカーが1〜2カ月かけて海賊版サイトの調査を行い、判明した運営者の情報を提供している。

 一連の取り組みは着実に成果を上げている。今年2月にはCODAの告発を受け、中国河北省の公安当局が日本のアニメ約1800話を無断で配信していた海賊版サイトの運営者を摘発。約33万元(約700万円)の広告収入を得ていたとみられる。7月には日本のアニメ計2100作品(約3万話)以上を違法に配信していた中国の大規模海賊版サイト運営者の有罪が確定した。

 CODAによると、国際執行プロジェクトにより25年3月末までに84の海賊版サイトを閉鎖に追い込んだという。

 ただ、近年では中南米でも海賊版サイトが拡大し、日本からのアクセスを遮断して見つかりにくくするなど手口も巧妙化している。日本のコンテンツを守るためにも官民で一丸となって対策を進めていく必要がある。

配信サービスで正規コンテンツ拡大

 日本動画協会(東京)によると、2023年の日本製アニメコンテンツ産業の市場規模は世界で3兆3465億円で、13年の2倍以上にふくらみ、過去最高を更新した。特に海外が飛躍的に伸びており、10年前は3000億円に満たなかったが、23年は1兆7222億円で日本国内を上回った。要因の一つに配信サービスなどによる正規コンテンツが海外で拡大していることがある。

 日本のアニメに特化した配信サービスとして06年にスタートを切った「クランチロール」は、海外のファンに正規の手段で視聴する選択肢を提供するという点で大きな役割を果たした。現在はソニーグループ傘下で、日本と中国を除く200以上の国と地域でサービスを提供し、25年3月末時点で有料会員数は1700万人を超えている。

 中国では動画共有サービス「bilibili」が、24年5月時点で2000本以上の日本アニメの正規版を配信し、累計で500億回以上再生されている。

日本政府はアニメや映画などの日本のコンテンツ産業の海外市場規模を33年までに20兆円にする目標を掲げる。そのためには海賊版による被害を減らし、正規コンテンツをいかに普及させるかが重要となる。(桑島浩任)

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