リコーは、新設したワークショップルームにShureの会議用AVソリューションを導入した。従来の“アナログ”なワークショップ運営は半年間で720時間もの工数がかかっており、その削減が大きな課題だったという。この改革の鍵を握ったのがShureのソリューションだ。参加者の音声をデジタル化し、AIによる分析を可能にする“一流の音”への投資は、AI時代の新しいワークショップにどう貢献するのだろうか。
「オフィス・オートメーション」(OA)を提唱し、事務機器やICTサービス、デジタルサービスの提供で知られるリコーは2024年2月、価値共創拠点「RICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO」(以下、RICOH BIL TOKYO)を品川に移転してリニューアルオープンした。この施設は企業の経営層を対象としたエグゼクティブブリーフィングセンターとして機能し、顧客の経営課題解決を支援するリコーにとって最前線の舞台に位置付けられている。
「RICOH BIL TOKYOでは、経営課題の解決を登山に例えます。私たちは山を案内する『シェルパ』としてお客さまを支援して、険しい山を共に登っていく役目を果たします。その道中をサポートする方法としてリコーグループのデジタルサービスを提案し、業務改革や構造改革を実現するのです。RICOH BIL TOKYOには年間400社ほどの来場があり、課題の解決に向けて共に取り組んでいます」と、リコーの菊地英敏氏は説明する。
菊地氏は、RICOH BIL TOKYOの基軸となるデジタルサービスの強化ポイントとして以下の領域を挙げる。業務プロセス改革を実現する「プロセスオートメーション」、働く場所での体験価値をアップデートする「ワークプレイスエクスペリエンス」、ハードウェアやソフトウェアをつなぐ「ITサービス」だ。これらを組み合わせた戦略オプションを経営者に提示し、共に実践する。
この取り組みを加速させる中核拠点としてRICOH BIL TOKYOに新しい「ワークショップルーム」を2025年9月に開設した。オープンソースのAIエージェント開発プラットフォーム「Dify」とオンラインホワイトボードツール「Miro」を組み合わせた論点整理の自動化や「アルフレッド」という愛称のバーチャルヒューマンとの対話など、最先端のAI技術を活用したワークショップを体験できる。
横一列に配置された3つのモニターに遠隔地の様子やMiroボード、アルフレッドを投影して、空間を超えたワークショップを可能にした。部屋の映像はモニター上のカメラで撮影し、音声は天井に埋め込んだスピーカーホンが収音するこのワークショップルームは、顧客にワークショップ設備を提案するモデルルームでもある。リコーがワークショップルームを刷新した背景には、RICOH BIL TOKYOの運営で直面していた課題があった。
RICOH BIL TOKYOは移転前からワークショップを実施していたが、ホワイトボードに付箋を貼っていく“アナログ”な手法を採用していた。フレームワークの作成や顧客課題の調査、検討、設営といった作業が煩雑で、ワークショップの運営に半年間で720時間もの工数がかかっていた。
ワークショップの進行にも課題があった。課題を付箋に書いてもらって課題をクラスタリングし、それらを共有するといった事前作業に1時間以上要していた。そのため、参加者は本質的な議論が始まるころには疲れてしまう。これではクリエイティブなワークに集中するのは難しい。
「こうした工数を“半減”させることが、新しいワークショップルーム構築の出発点でした」と菊地氏は振り返る。その実現の鍵の一つが音声のデジタル化だった。「白熱した議論や対話の内容を正確にデジタル化することで、その内容を経営資源として活用できるようになります」
新しいワークショップルームは「空間との対話」というコンセプトを掲げて設計した。オフライン/オンラインの参加者が自由に発言し、それがリアルタイムにテキスト化され、AIが整理・分析する。議論に行き詰まったときや新しい意見が欲しい場合はアルフレッドが議論を促進し、論点を可視化する。ワークショップの煩雑な作業を自動化・高度化することで、人間は議論や検討に集中できて参加者の声を“価値”に変換する。
新しいワークショップで欠かせないポイントが、マイクやスピーカー、カメラといったAV設備の存在だ。「参加者の想像力を高めて発言を促す環境を構築するためには、主張し過ぎないAV設備が不可欠でした。『撮られている』『録音されている』という印象を与えないためです。しかし機能は一流でなければなりません。さりげなく配置されたAV機器が会議内容を正確に記録してデータとして生かせるようにする。そんな『主張し過ぎないがすごい相棒』が必要でした」
近年、リコーはマルチモーダルLLMの開発に注力しており、生成AIの開発力強化に向けた経済産業省のプロジェクト「GENIAC」に採択され、日本語に特化したマルチモーダルLLMを開発している。またプライベートLLM(大規模言語モデル)の構築も進めており、RICOH BIL TOKYOにオンプレミスAIを配置して機密性の高い経営会議でも安心して活用できる環境の実装を予定している。
「経営会議では、外部に出せない機密情報やデータを扱うことがあります。安全なAIエージェントが戦略オプションを提示できれば、会議の質は向上するでしょう。そうしたAI活用の重要な基盤の一つが、音声を正確にデータ化する技術です」
議論の声をデータに変えてAIで整理・活用し、さらに創造的な議論を生み出す。このサイクルを実現するためにも、AIに渡すためのデータとなる音声品質を妥協するわけにはいかなかった。
「参加者の議論を妨げない設計」「高精度な音声認識を実現する収音性能」そして「ハイブリッド会議に対応するソリューション」という音響システム要件に合致する機器としてリコーが選定したのは、Shureの「IntelliMix Room Kit」だ。マイクとスピーカーが一体化された天井埋め込み型のシーリングアレイマイクスピーカーホン「Microflex Advance MXA902 シーリングアレイスピーカーホン」(以下、MXA902)を中核に、オーディオプロセッサ機能内蔵のMicrosoft Teams RoomsミニPCやカメラ、操作用のタブレットが統合されている。
天井に埋め込まれたMXA902は参加者の視界に入らず議論を阻害しないが、多数の小型マイクが内蔵されており話者の位置を的確に捉え、小声さえも収音して音声認識AIに正しいデータを送り込める。収音エリアが広いため、参加者が移動しながら発言しても問題ない。マイクとスピーカーが一体になっているものの、高性能なプロセッサで音声を処理するためハウリングすることもなく、リモート参加者の自然な声を会議室に届けられる。
「RICOH BIL TOKYOのコンセプトは『偶然性と創造性』です。部屋にマイクが見当たらず、どこで音を拾っているのかと思ったら、天井のマイクに気付いて驚く。スピーカーも内蔵されていて、リモート参加者の声が上から降ってくる。もはやテクノロジーではなくアートだと感じます。これが経営者に響き、ワークショップ設備に投資しようという気持ちになると確信しています」
IntelliMix Room Kitは、「Microsoft Teams Rooms」用システムとしてMicrosoftに認定されているため、複雑なインテグレーションや煩雑な互換性テストなどは必要ない。MXA902とカメラ、タッチパネルはPoE(Power over Ethernet)に対応しており、イーサネットケーブル1本で接続できる。そのため機器の設置場所の自由度が高く、配線などをシンプルに構成できるというメリットもある。トラブル発生時の対応が容易なので、総務担当者が視察に来ることも多いという。
菊地氏は「RICOH BIL TOKYOの設備は一級品を選びたい」と改めて強調する。リコーは、自社で新技術を徹底的に活用して投資効果を示してから顧客に提案するという文化を持つ。デジタルの最先端にいるRICOH BIL TOKYOであればなおさらだ。
「中途半端なものに経営者は投資しません。リコーが選んだ一流の製品で、意味のある提案をしたい。つまり“一流の音”への投資が人への投資になるということを示したいからこそ、Shureのソリューションを選びました」
新しいワークショップルームの稼働後、ワークショップの準備にかかる工数は大幅に削減され、活発な議論と検討を強力に支援している。MXA902で収音した参加者の声がリアルタイムで要約されてMiroに整理されていく。新しい意見が欲しいときはアルフレッドに尋ねればよい。
「RICOH BIL TOKYOには毎日多くのお客さまが訪れます。特に経営者層はワークショップのコンセプトやAI活用に注目し、総務やファシリティーの担当者は設備の実用性や導入のしやすさに関心を持つことが多いですね」と菊地氏は述べる。IntelliMix Room Kitが主張し過ぎない相棒だからこそ、経営者は先端技術の活用に集中できるということだ。
「リコーは『機械に任せられることは機械に任せて、人にしかできないことを大切にしよう』というコンセプトでOAを提唱しました。AI時代の今、私たちはOAを再定義して新しい働き方というOSを再インストールしようとしています。RICOH BIL TOKYOは常に進化し続け、お客さまを驚かし続ける場所でありたいと思います」
音声を経営資源に変えて対話から価値を生み出す。リコーの挑戦は、働き方の未来を指し示している。
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