睡眠よりブログ、新聞よりネット:RAG FAIR土屋礼央に聞く(2)
寝る暇がなくてもブログを書き続けるのは、自分をリセットできるから。ネットニュースでネタを仕入れ、ポッドキャストで発信し、はてなキーワードで評判を知る。すべては、信じる音楽のため。
1日を振り返ってブログを書き、自分をリセットする。「Yahoo!」で名前を検索し、ヒット数で人気をはかる。ニュースサイトを駆けめぐり、ラジオで話すネタを集める。
「ネットがないと孤立してたと思う」――土屋礼央さんは、RAG FAIRとズボンドズボン、2つのバンドを掛け持つミュージシャン。ブログが、ネットニュースが、Yahoo!検索が、忙しすぎる彼と、外の世界をつなぐ。
「時間があれば外に出てディズニーランドに行った方がいい。河原にも行ったほうがいいし、山にも登ったほうがいいと思います。本当はそうしたいんだけど、できないから」――彼はネットに頼る。指先と目で、画面の向こうを疑似体験する。
Yahoo!やライブドアのニュースサイトをめぐり、ネタを仕入れる。ラジオやテレビの仕事でどんな話題を振られても、何か1つは返せるようになっていたいから。
一般紙とスポーツ新聞を取っていたこともあるが、マンションがオートロックになり、新聞が部屋まで届かなくなって以来、面倒でやめてしまった。それでも、マネージャーが驚くほど何でも知っている。
10月から始めたブログにハマった。内容も見せ方もすべて自分でプロデュースでき、嘘がないのが気に入っている。
昨日の続きで今日を生きるのが一番疲れる。だからブログは、睡眠時間を削ってでも書く。文章でその日を振り返り、明日をシミュレーションすることで、自分をリセットできるから。エネルギー充てん効果は、睡眠時間よりも高い。
更新はほぼ毎日。アップ直後から、待ち構えていたファンのコメントが付き、トラックバック(TB)が来る。何十ものコメントとTB、ほとんど全部に目を通す。「ぼくのことを考えてくれる人がいるだけで幸せ」
家賃が無駄に思えるほど、最近は家に帰れない。「1週間で滞在時間2時間とか」。外出先でもネットにつなげるよう、PowerBook G4とAIR-EDGEを常備。自分のために、ファンのために、ブログを更新する。見てくれる人の期待に応えたくて、1日に5回更新したこともある。
ネット上の評判は、いつも気になる。はてなダイアリーで、キーワード「土屋礼央」の言及数をチェックするのが日課。Yahoo!で自分の名前を検索することもある。「数字が出ると、燃えますね」
ネットを「3回のきっかけ」の1つに
ブログ、ポッドキャスティング、ストリーミングラジオ、Webダビンチの連載、ネットテレビへの出演――礼央さんのネット上の活動は幅広い。音楽と関係ないものもあるが、そのすべてが、自分が信じる音楽への入り口になればいいと思っている。「最初のきっかけは3回必要」だから。
例えば、人がCDを買うまで。コンビニで流れる曲を「いいな」と思い、テレビの歌番組で見て思い出し、雑誌記事を読む――こんな3ステップを経てやっと購入を決めるものだという。きっかけになり得る場が多いほど、音楽を伝えられる可能性が高まる。
「土屋礼央は、ホームランバッターではなくマルチなホワイトソックスなんですよ」――米大リーグの野球チームに、自分自身をなぞらえる。一芸に秀でたタイプではない。歌もしゃべりも曲作りもできるけど、ヤンキースの松井秀樹みたいに、一発でバックスクリーンには飛ばせない。だから、それぞれの能力に役割を与え、チームの力を結集して、音楽を発信する。
ブログもネットラジオもポッドキャスティングも、チーム土屋礼央の一員。彼らにどこかで触れてもらい、RAG FAIRやズボンドズボンの楽曲を知ってもらえれば、それで嬉しい。「一番プライドを持っているのは音楽。楽曲をどう伝えるかに命を賭けていて、それを一番表現できるぼくでありたい」
チーム土屋礼央の本拠地がブログだ。RAG FAIR、ズボンドズボン、ネットラジオ、寄稿した文章――すべてへのリンクがそこにあり、「土屋礼央」を中心に1つにつながる。日本最大のポータル「Yahoo!JAPAN」を意識して、「礼央化 JAPAN」と名付けた。ここを起点にして、いろんな自分を見に行ってほしい。Yahoo!のように、すべてのコンテンツに、文化と魅力を持たせたい。
「世界を“礼央化”したいんです」――5年も前から、そんなことを言ってきた。普通の人とちょっと違う価値観。「生き急いでいる」と言われるほどあわただしい生活。でもそれが幸せだから「ぼくみたいに生きるときっと楽しいよ」と伝えたい
ネットは本物には勝てない
ネットなら、いつでもどこでも、知らない世界に行ける。ネットの可能性は、すごいと思う。でも、ネットだけで完結するのは、もったいないと感じている。
「ネットは本物には勝てないと思います。イタリアの良さは行ってみないとも分からないし、人の良さは会ってみないと分からない。ネットはきっかけであり、ツカミだと思う」
音楽はダウンロードで十分。CDもライブもいらないという人もいるだろう。それはそれでいいし、否定するつもりはない。でも、ダウンロードがきっかけでCDを買ってくれたり、プロモーションビデオを見てくれたり、本物に触れてもらえれば、もっと素敵だと思う。
「これは作り手側のエゴだけれど、CDという形に愛があるんです。ジャケットも歌詞カードの紙質もPVも含めて、作品なんです」
CDやダウンロードした音楽を「いい」と感じてくれた人には「ライブはもっといいですよ」と伝えたい。「スピーカーがガンガン響くライブの音を知れば、もっと高音域低音域聞きたくなるかもしれない。MP3じゃ狭い狭い、って」
本物が持つ力はきっと、コンテンツよりも強い。「CDがなくなる可能性があったとしても、ライブは絶対なくならないですから」
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