「日本の宇宙産業は危機的」――“民の力”に期待するJAXA
宇宙開発への国家予算縮小で、日本の宇宙産業が危機に瀕している。JAXAは、民間企業の新規参入を呼びかけたり、投資家を募って宇宙開発の“ビジネス化”を急ぐ。
「日本の宇宙産業は、非常に危機的な状況にある」――宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、1月17日に開いた産学官連携シンポジウムでこう訴えた。国家予算頼みだった宇宙開発は、予算の減少に伴って縮小傾向に。歯止めをかけるには、宇宙開発に縁のなかった企業の参入や投資家からの資金援助が不可欠。ビジネスモデルの確立も急務だ。
同シンポジウムは、宇宙開発の産学官連携推進を目指してJAXAが主催しているもので、今回で3回目。宇宙飛行士の若田光一さんが出席したこともあり、六本木ヒルズ49階の会場はほぼ満員。定員の500人に対して800人もの申し込みがあったという。出席予定だったライブドアの堀江貴文社長は欠席した(関連記事参照)。
JAXA産学官連携部長の石塚淳氏によると、ロケットや衛星など宇宙機器産業は、ほとんどを国家予算でまかなっている状況だ。同市場の売上高は、1998年度は3789億円だったのが、2003年度には2407億円と36%減。2003年度の従業員数は、1998年度から30%減の5840人に落ち込んでいる。石塚氏は「売上高、従業員数ともに産業としてのミニマムマスを確保していない。利益も出ず、設備投資もできず、自立した産業として成り立っていない」と危機感を募らせる。
現状打破に必要なのは、宇宙産業のすそ野の拡大と、利益を確保できるビジネスモデルの確立だ。「宇宙機器産業は俗に『宇宙村』と呼ばれ、限られた大企業しか参加できなかった」と石塚氏は指摘。今後は、非宇宙分野の企業や、中小企業、大学などが参加し、新たなビジネスチャンスを見い出せる市場にする必要があるという。
また従来のように、宇宙開発用に作った技術を民間で生かすだけでなく、民間の技術を宇宙開発に応用することも重要という。宇宙飛行士の若田光一さんは「すでに民間にある技術で、宇宙開発に使えるものはものすごく多い」と話す。
JAXAは「宇宙オープンラボ」で、民間の技術の“宇宙化”を支援する。宇宙ビジネスにつながる研究を、資金・人材面でサポートするプロジェクトで、2004年度には、「メガスター」で知られる大平貴之さんを中心としたグループによる、宇宙教育にいかせるプラネタリウムの開発や、寝具メーカーの西川リビングによる宇宙で快適に眠れる布団の開発などが選定された。2005年度には、宇宙船内の照明をLED化し、長寿命・安全にする松下電工の研究などが採択されている。
松下電工LED・特品・新市場開発センター新市場開発部の千代和夫部長は、「当社にとって宇宙はまったく新しい分野で、従来の製品開発とは違った観点が必要。新たな技術が生まれることもあり、この経験は必ず民生部品に生きてくる」と手応えを語る。
JAXAは同日、宇宙オープンラボの公式サイト上で、宇宙ビジネスに興味を持つ投資家へのメールマガジン配信登録を始めた。宇宙開発の研究者と投資家との出会いの場を提供し、ビジネスのヒントをもらったり、出資をあおぎたい考えだ。
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