「萌えで世界を平和に」 オタク新雑誌「メカビ」(2/2 ページ)
講談社からオタクによるオタクのための雑誌「メカビ」が創刊される。麻生外相に“ローゼンメイデン問題”を直撃したインタビューがある一方、ギャルゲーレビューも盛り込む。何でもありに見える同誌だが、「萌え」の思想で貫かれているという。
「オタク系の人気個人サイトは基本的に、『私は○○が好き』ということしか書いてないが、それだけで万単位のアクセスを稼ぎ、媒体として成立している。逆に、ケンカをふっかけるようなサイトはすぐにつぶされる」(松下さん)
サイトは、作者の好み――萌え属性――によってさまざまな種類があるため、自分の好みと合うサイトを見ていればそれでいい。「ToHeart2が好きな人はそのサイトに、初代ToHeartが好きな人は初代のサイトに、両方が好きな人は両方好きな人が作ったサイトに行けばいい」。そこに対立はない。
対立を避けるための秩序もある。「例えば、人気の「ハルヒ」(『涼宮ハルヒの憂鬱』、ライトノベルが原作)のアニメに関する個人サイトの掲示板には、『原作を読んでる人はネタバレしないようにしましょう』というローカルルールがある」
オタクは寛容になった
連続幼女殺人事件の犯人がオタクだったと報道された1988年以来、オタクへの風当たりは強かった。オタクであり続けるには、世間から白眼視されてもいいという覚悟が必要で、オタクと非オタクの間には超えられないラインがあった。
しかしここ数年、オタクが市場として認知され、「電車男」のヒットでオタクへの視線も若干柔らかくなった。「オタクは、おかしな人かもしれないけれど、人前に出せないものではなくなった」(松下さん)。オタク向け作品の幅の広がりや、ネットによるオタクコミュニティーの細分化に伴うオタク市場の“寛容化”で、オタク世界への入門もしやすくなった。
「SFが衰退した理由は、作品が増えすぎて、全部を押さえ切れなくなり、若い人が付いていけなくなったため、と言われている。文学も押さえるべき歴史が多すぎて入門しづらい。でも(オタクに人気の)ライトノベルは『ハルヒ面白い』と言っていればそれでいい」(松下さん)
同誌の表紙には「コッチニ来イヨ、漢ハミンナ仲間ダ!」と書かれている。「オタクの世界への門戸は常に開かれている」(井上さん)
キャッチコピーは、「萌え世代のモブカルチャーマガジン」。萌え世代とは、ネットに馴染んだ20代以下の世代で、オタク・非オタクの二元論とは距離を置き、オタク的態度を生活の一部に取り入れて楽しんでいる世代だ。
この世代は、自分が何者か――オタクであるか否か――を定義する必要がなく、ただ好きなものを好きと言っていればそれでいい。24時間オタクである必要もなく、日常生活の中でオタク的趣味を楽しんでいればいい。寛容な世界で、他人の好みも否定しない。これほど楽しい世界はないと、同誌は訴えかける。
モブカルチャーとは本田透さんの造語。「喪で萌えな文化」という意味という。「サブカルチャーでもカウンターカルチャーでもなく、群集の中にある主体性のない文化。何だか意味が分からないけど、みんなが仲良くなれる」(井上さん)
萌えは世界を平和にするかもしれないと、井上さんは言う。「萌え世代がけん引する形で、世の中は寛容な方向に変わってきているのではないか。世界平和というか、人類がみんな寛容になるためのとっかかりが、オタクという言葉にあるような気がする」(井上さん)
とはいえ、オタクへの世間の視線は、まだ温かいとは言い切れない。「それは仕方ないと思う。昔はロックだって不良がやるものだったし。いずれロックのようにオタクが世の中に定着するといいなと思う。この雑誌がそのために、少しでも貢献できれば」(松下さん)
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