「スプー」削除の舞台裏 「YouTube」にテレビ局苦慮
YouTubeの違法動画に、テレビ各局が手を焼いている。NHKは「スプーの絵描き歌」の動画削除を依頼し、米YouTubeもそれに応じたが、削除直後に同じ動画がまたアップ。いたちごっこが続く。
米YouTubeが運営する動画共有サイト「YouTube」からこのほど、NHKの動画「スプーの絵描き歌」が削除された。NHKは「当協会の著作権を侵害している」として米YouTubeにメールで削除を要請。翌日には削除されたという。
しかし、削除後すぐにYouTubeに同じコンテンツが再アップされ、いたちごっこの状態。フジテレビジョンなど民放局も自社コンテンツの削除に動いているが、無数のユーザーによって次から次にアップされる違法コンテンツへの対応に苦慮している。
NHKの要請で削除されたのは、今年4月にNHK教育テレビが放映した「おかあさんといっしょ」の一部。出演者が「スプーの絵描き歌」を歌いながら、番組キャラクター「スプー」の似顔絵を描くという内容の数分間の映像だ。
出演者の1人で「うたのお姉さん」こと、はいだしょうこさんが描いた似顔絵が「あまりにユニーク」と掲示板やブログ、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などで話題となり、多くのユーザーが視聴した。似顔絵を模写した絵やアスキーアート(AA)、パロディー動画、ゲームなども次々にネット公開され、人気を呼んだ。
NHKは、絵描き歌の動画がYouTubeで公開されている事実を、外部からの通報によって5月末に知ったという。「調査の結果、NHKの映像の違法な複製物であると確認した」(NHK広報局)ため、米YouTubeに5月30日に英文メールで削除を要請。翌5月31日に、削除を確認した。
YouTubeは著作権を侵害する動画の公開を禁じており、違法コンテンツの削除フローも徐々に簡略化しているようだ。昨年12月から、YouTubeに違法にアップされたコンテンツの削除を依頼してきたというフジテレビジョン著作権部によると、「昨年は、YouTube側の削除基準が厳しく、弁護士名でサインを入れた依頼書をFAXする必要があった。しかし今年4月ごろに削除依頼した際は、メール1本ですぐに削除してもらえた」という。
絵描き歌の動画のあったURLにアクセスすると「This video has been removed at the request of copyright owner Japan Broadcasting Corporation because its content was used without permission 」(この動画は、著作権者に無断で利用されていたため、著作権者であるNHKの要請で削除しました)と表示される
削除はいたちごっこ
とはいえ、YouTubeの動画は、1度削除して終わりではない。公開されている間に動画をダウンロードし、ローカルに保存したユーザーなどが、削除を知るなり再アップすることが多いためだ。絵描き歌の動画も、削除後すぐYouTubeに再アップされ、現在も公開されている。
「違法コンテンツをすべて把握し、いちいち削除依頼を出すことは不可能に近い」――NHKとフジテレビはこう口をそろえる。NHK広報局は「YouTubeの動画を毎日1つ1つ確認するのは大変で、人員も足りない」とし、視聴者から通報があった場合のみ、違法かどうかを確認して削除依頼を出しているという。通報は今年に入って目立って増えているというが、増え続けるコンテンツに対応が追いつかない。
フジテレビも手を焼く。「現状は、国内の著作権侵害対策で手一杯。当社のコンテンツをDVDにコピーし、オークションで販売するユーザーへの対応などが最優先になっている。YouTubeに次々に上がる動画をすべて監視する余裕はない」(フジテレビ著作権部)
それでも指をくわえているわけにはいかない。フジテレビは、米国のテレビ局などYouTubeに抗議している団体の動きを注視しながら、訴訟を含めて今後の対応を検討するとしている。日本テレビ放送網も「当社の番組がYouTubeにアップされていることは、明らかな著作権侵害と考えており、削除要請も検討している」とコメントした。
YouTubeは生き残るか
YouTubeは、今年3月には日本から212万人が訪問し、利用が急拡大している(関連記事参照)が、著作権者に無断で公開されていると見られるコンテンツも数多く、テレビ局関係者からは「なくなってほしい」という声も聞こえる。
その一方で、放送が終了した番組の動画など、他では手に入らないコンテンツを発掘できたり、番組のプロモーションができるというメリットもあり、新たなビジネスにつながる可能性も指摘されている。
初期のP2Pファイル交換ソフトのように、違法コンテンツをやりとりするだけのアンダーグラウンドな存在で終わるのか、何らかの新しい価値を生み出すのか――YouTubeのあり方をめぐる議論はしばらく続きそうだ。
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