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はてな、アメリカへ(2/3 ページ)

スターウォーズ登場人物の過酷な生き方を見て思った。「東京でぬくぬく暮らしてる場合じゃない」。はてなの近藤社長は、社員を日本に残してアメリカに渡る。目標は「はてな村を世界に」。

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はてな村を世界に

 「はてな村」――はてなのユーザーコミュニティの独特さ、小ささを揶揄するこんな言葉がある。日本の小さな村で終わらせたくない。「はてな村を全世界標準にして、誇れるようにする、というのが目標」

 はてなのサービスには、独創的なアイデアが詰まっている。独創的、裏を返せばマイナー。誰もが使う標準サービスになり切れない。

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「国内でちょっとした数字を争うというよりは、同じような目的を持った人と情報交換し、協力ながら、切磋琢磨したい」

 例えばはてなダイアリーのキーワードリンク。ブログに書かれたキーワードに自動的にリンクが張られ、クリックするとユーザーが作った辞書に飛ぶ。慣れると便利な機能だが、「こんなマニアックな機能がついているせいで、はてなダイアリーはとっつきにくい」と言われることも多い。

 だがこれが、トラックバックのような世界標準になれば、ユーザーにも胸を張って利用を薦められるし、世界中の人に使ってもらえる。「これが世界中が騒ぐ次世代のブログですよ」、なんて言えるかもしれない。

 「ぼくたちが標準化の競争に勝つかどうかで、ユーザーさんを亜流に入れるか、次の本流に上げるのかが決まる」

 世界に日本を見せ付けたいという。「いつもアメリカのコピーで終わっているとしたら悔しいじゃないですか。日本のネット業界が、世界に認められるようになってほしい。とにかく何か1個は、日本から世界に認めさせたい」

 ホンダやソニーのように、世界的視野を持つ日本のメーカーでありたい。「これから10年、50年、100年――日本の企業がネット産業の中でどういう位置づけになるかを決めるのは、ぼくたちがどこまでの視野を持てるかにかかっている」

これぐらいの年になると、みんな海外に行く

 30歳の社長を突き動かしたのは、世界標準という夢だけではない。海外生活への憧れと、今の自分への焦りもある。それは意外なくらいに等身大だ。

 「これぐらいの年になると、周りの人は留学や研修で海外に行く。ぼくの妹はロンドンに留学しているし、大学の同期も何人かが海外の大学で勉強している。彼らがいろんな人脈や知識を増やして、帰って来て活躍し始める時に、『今さらどうしようもない』ってくらい追いつけなくなっているかもしれない」

 「60歳、70歳になっても仕事をやっていくとしたら、これから30年も40年もある。能力も経験も広げ、まだまだ成長すべき時期。35歳や40歳になってから、つたない英語で海外行くのは、できなくはないけれど難しい。若い時の方が、成長の幅が広がると思う」

“変な会社”であるために

 本社から社長が抜ける――こんな“非常識”が許される、最初で最後のチャンスが今という。「例えば社員が50人に増えていたら、上場の話も出てくるだろうし、社長がどこか行きます、というのは難しい」

 社員数は今、21人。社長1人で全員を引っ張っていく限界の人数に来た。「組織で力を出さなくてはならない時期。仕組みなり心構えなり、成長なりが必要になる時期」。抜けるのに一番いい時期と語る。

 「どんな分野でもついつい口を挟んでしまう悪い癖がぼくにはある。だから、抜ければみんな頭をひねるだろう。ぼくがいるせいで発露していない才能なり能力なりが、皆の中でちょっとずつ出てくるはず」

 合宿先でサービスを開発し、社内に掘りごたつを作り、朝は英語でミーティングし、ポッドキャスティングでインタビューを配信する。こんなはてなのユニークさは、「普通のやり方よりもいいやり方がないかな?」と誰かが――主に近藤社長が、ずっと考えていたから生まれた。

 「『近藤という1人のアイデアマンがいたからはてなはユニークだった』では続かなくなる。みんなが『本当はもっといいやり方があるんじゃないか』と考え続けていないと、規模の拡張に負けて普通の会社になってしまう」

 “変な会社”はてなが、人が増えれば「普通の会社」になる。みんながそう言って脅すのだと笑う。普通の会社は、就職したことのない近藤社長にとっては「イメージの世界」だが――

 「ドラマとかに出てくるつまらなそうな会社。官僚組織的なというか、ピラミッド構造になっていって、みんなつまらなそうに働いていて、いつも上司に文句を言ってる。何かを決めようとしたらはんこがいくつも必要で――というイメージ」

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 普通の会社にはなりたくない。“変”なまま、規模を拡大していきたい。目指す姿をあえて挙げるとすれば、Googleだ。「楽しそうで、上司のグチとか言ってなさそう」だから。

 「あの人数になって、まだぼくたちが『いいな』と思える製品が出てくるということが、Googleの組織の良さを現してるなぁと思っていて」

 「『こんな面白いもの作ったけど』とポンと出した時に『何がもうかるんだ』と潰されるような組織なら、新しいサービスは出てこないと思う。それが出てきてるということは、中でそういう力学が動いているんだろう」

 Googleのように、面白いものを次々と常に生み出せる会社であるために、社長なしでも進化できる組織に今、変わりたいという。1人1人が会社に主体的に関わり、他の社員を気にかけてお互いを支え、不満があればきちんと表明して解決策を考えるような組織が理想だ。

 そのために組織を組み直し、新しい仕組みも作った。社員と何度も話し、価値観も共有した。社長が抜けても成長できるよう、種はまいたつもりだ。

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