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著作権保護期間は延長すべきか 賛否めぐり議論白熱(3/3 ページ)

作者の死後、著作権は何年間保護するべきか――こんな議論が盛り上がっている。クリエイターの創作意欲を高め、文化を発展させるためには、現行の50年のままでいいのか、70年に延長すべきか。それぞれの立場で議論が行われた。

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(4)「国際標準70年」に合わせるべきか

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福井さん

 米国やEU諸国ではすでに70年に延長されており、日本が諸外国と対等に付き合うためにも“70年という国際標準”に合わせるべきだと延長賛成派は主張する。これに対して反対派は、「70年より短い国の方が多く、国際標準とは言えない。70年に延長することは国益にも適わない」と反論する。

 反対派の福井さんは「70年が国際標準」という前提が間違っていると語る。「ベルヌ条約(著作権法の国際条約)加盟国のうち保護期間を70年にしている国は3分の1に過ぎない。同じ70年でも国によって条件が異なり、例えば米国で70年とされているのは比較的新しい作品だけだ」(福井さん)

 「『アメリカが延ばせと言うから』と延長を主張する人もいるが、ありもしない空気を読んで不戦敗するのが日本の外交の問題。日本にとって、世界にとって70年が本当にいいのか考える必要がある」(福井さん)

 「世界で保護期間が不統一だと著作物の国際流通が害されるという主張もあるが、欧米でも不統一なのが現状。私が仕事で接する限り、流通が阻害されているとは言えない」(福井さん)

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山形さん

 山形さんは、延長しない方が日本にとっては得だと語る。「昔の遺産で食べている国は、期間を延ばせば得になる。だが日本は輸入超過。そういった国に準じる必要はない」(山形さん)。福井さんも同じ意見だ。「日本で保護期間が延長すれば得する欧米の作品はたくさんある。日本の古い作品で、延長しないと困るものがどれだけあるだろうか。ゲームや漫画、アニメなどは輸出が多いが、それは20年後の国民が考えればいいこと。一度延長してしまうと短縮はきわめて難しい。拙速な延長は慎むべき」(福井さん)

 平田さんは南北問題にからめて言う。「多くの途上国にとって、保護期間は短い方がいい。『先進国クラブ』に入って文化収奪に手を貸すのか。日本の演劇界が(著作権の切れた)チェーホフ作品でどれだけ成長できたことか」(平田さん)

 延長賛成派の三田さんは、個人と国家の関係にまで話を発展させる。「日本は、著作物の輸出量よりも輸入量の方が多いから、国全体として見れば保護期間が短い方が経済的に得だ、という議論がある。だが国家のために個人を犠牲にする議論はとうてい民主主義的とは言えない。日本はいつから社会主義国になったのか」(三田さん)

 「日本で出版されている翻訳本のほとんどが、保護期間70年の欧米のもの。欧米の作家の20年分の権利を日本国内でははく奪し、踏みにじっている。海外の作家と胸を張って付き合うためにも延長は必要」(三田さん)

 一方で三田さんは、「星の王子様の恋愛論」という本を書いた際、原文の著作権が切れていなかっため、現地のエージェントにお金を支払って翻訳許可を取ったエピソードを披露。「正直言って『保護期間は短い方がいいな』と思ったこともある」(三田さん)とも語った。

 延長賛成派は、延長と同時に、戦時加算(連合国の著作物について、保護期間に太平洋戦争の期間10年を加算する義務)の解消ができるとも主張している。だが福井さんは「戦時加算は一方的には解消できない。まず延長しておいて、各国にお願いに行くというのは交渉としてはかなり下手な方法だ」と痛罵する。

落としどころは

 平田さんは1つの“落としどころ”として「日本は弱腰外交だから、アメリカの圧力に屈して70年に延長されるかもしれない。そうなった場合、20年分の延長で得た利益を、半分は若手クリエイターの育成に、残り半分はユニセフにでも寄付してしまえば、この場にいる全員が納得するのでは。そうすればアメリカの鼻も明かせる」とユニークな考えを提案する。

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田中さん

 零士さんは「作家全員が70年を希望していないことは知っている。だから法律では70年と定め、70年の保護を必要としない人は遺書などで『保護は50年でいい』などと書けばいい」という折衷案を提案した。

 慶応大経済学部助教授の田中辰雄さんは「結論を出すにはデータがあまりに足りない」とし、過去の延長前後に著作物数は変化したか、延長は本当に創作の誘因になるか、パブリックドメイン化でどれだけの利益があがるか、国際貿易上の利益はどうなるか――といった点について定量的に調査してから議論すべきと語る。

 シンポジウムの最後には、レッシグ教授が寄せた「延長はクリエイターのインセンティブにならない」というメッセージが読み上げられた。すると零士さんは「最後にそれで締めくくられるのは不公平。こういう締め方をするなら私はきょうここに来なかった」と怒りをあらわに。青空文庫の富田さんが「ではもう一言ぜひ」とうながすとこう語った。

 「文筆家や作家は、明日路傍に迷うことも覚悟の上で日々苦闘している。誰も助けてくれない壮烈な世界だと改めて言っておきたい。けんか腰の議論はしたくない。和気あいあいとおだやかに進めたい」

 三田さんも最後に「視覚障害者向けに、書籍のネット配信を合法化する法律が国会で可決されつつある。これを提案したのはわたし。著作者の権利を守るだけでなく、こういった取り組みもしている」と付け加えて理解を求めた。

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