RMTは本当にダメなのか
ゲーム内通貨を換金できる「Second Life」の流行で、RMTに関する議論が再び盛り上がり始めている。RMTを頭ごなしに「ダメ」と断じるのではなく、その位置づけを冷静に議論しようという動きも出てきている。
オンラインゲーム業界ではここ数年、ゲーム中のアイテムなどを実際の金で売買するRMT(リアルマネートレード)への対応が課題になっている。RMTとは、ゲーム内アイテムなどを、現金で取り引きする行為。多くのオンラインゲームは規約で禁止しているが、法律上は問題がないとされ、RMTはなくなる気配がない。「Second Life」のようにRMTを公認したことでゲームを活性化し、ゲーム内経済を成長させた例もあり、RMTをめぐる前向きな議論も盛り上がり始めた。
「感情的に『RMTはダメ』というだけでなく、メーカーもユーザーも満足できるような新たな枠組みを考えるべきだろう」――2月23日に開かれた「アジアオンラインゲームカンファレンス 2007」(ブロードバンド推進協議会主催)で、ゲームジャーナリストの新清士さんは「アンダーグラウンドのRMTは容認しない」と前置きした上でこう語った。駒澤大学助教授の山口浩さんも「RMTをむやみに禁止すると、“闇の勢力”をばっこさせるだけだろう。守れないルールは秩序を崩壊させる」と指摘する。
RMTは、レベルを上げて能力が高いキャラクターのアカウントや、なかなか手に入らないレアアイテムなどを、ユーザーが他のユーザーに現金で販売する行為だ。オンラインゲームが盛り上がり始めた2000年ごろから日本でも行われるようになった。当初は、時間があるユーザーがレベルを上げたりアイテムを獲得したりして、オークションなどで他のユーザーに販売する個人間取引が主流だった。
「ゲームの付加価値は、ユーザーが創出したセーブデータで、ユーザー同士のデータ交換そのものは規制できない。となると、RMTはどうしても行われてしまう」(新さん)。時間があってお金のないユーザーと、お金があって時間がないユーザーがいれば、前者が時間をかけてプレイし、そのデータを後者に売り渡すのは、規約に違反しているとはいえ、自然とも言える。
ただここ数年、組織的にレベル上げ・アイテム獲得を行うRMT業者が中国を中心に激増。レベル上げやアイテム獲得を目的とし、「BOT」(ボット)と呼ばれる自動実行プログラムを利用したり、販売時に詐欺行為を行ったりするケースが問題になっている。
レアアイテムが出現する地点に大量にBOTを投入してアイテムを占領したり、なりふり構わず他のユーザーからアイテムを奪い取ったりするため、ゲームの秩序も崩れてしまう。これらのアンダーグラウンドなRMTについては、新さんも「規制すべき」という立場だ。
中国と日本では物価水準が異なるため、日本のオンラインゲームのRMTで日本円を稼ぐのは、中国人にとっては“おいしい商売”だ。また、中国のユーザーは6割が日常的にBOTを利用しているといい、BOTに対して寛容な文化もある。「RMTは国境を越えるので問題の位置づけが難しい。国際法もない」(新さん)
現時点での法制化は「意味がない」
RMTの扱いは、最終的にはネットの法律問題に行き着く、と新さんは言う。ユーザーが育てたセーブデータは誰のものか――ゲームメーカーの著作権で守られるべきなのか、データを“育てた”ユーザーが所有権・財産権を主張できるのか、といった問題だ。「ユーザーの財産権を認めると、ゲームを終了できなくなるため、ゲーム会社側が財産権を認めることはないだろう」(新さん)
また、所得税の課税対象とならないのか、国境を越えて取引される場合の関税はどうなるのかなど、RMTで稼いだお金の扱いも論点だ。北米では、Second Lifeなどネットで生み出された利益に対して課税するべき、という議論が盛り上がり、議会で検討が始まっている(関連記事参照)。韓国では「ヤクザの集団がRMTサイトを地下運用して利益を上げ、批判を浴びたため」(新さん)、RMTやBOTを禁止する法案が可決されたという。
日本でも法整備を急ぐべき、という意見もある。だが新さんは「現時点で法制化しても意味はない」と語る。「ここ数年だけでもRMTをめぐる状況は大きく変化し、今後も変動するはずで、今法制化することには意味がない。各国の議論の結果を待つのがいいだろう」
RMTは認められ始めた
RMTを公式に導入したゲームもいくつかある。米Sony Online Entertainment「EverQuest II」は2月8日、特定のサーバでユーザー間のRMTを公認した。当初、公認サーバは荒れるのではと予測されていたが、実際は、公認サーバとそうでないサーバのプレイスタイルは変わらなかったという。
Second Lifeは、ユーザーによるデジタルアイテム売買を公認しており、それが今の活況につながった。「Second Lifeで生まれたミリオネアは、他のゲームでは違反行為としてRMTを行っていた。違反行為が、Second Lifeならゲームへの貢献。価値が180度変わる」(新さん)
ちなみにSecond Lifeは、クリエイティブ・コモンズ提唱者のローレンス・レッシグ教授の提案で、ユーザーにデジタルアイテムの所有権を譲り、自由に売買させることにしたという。
ただ「Second Lifeもパラダイスではない」(新さん)。ユーザーが自由に創造・販売できるようにした結果、アダルトコンテンツがまん延した。また、初期からいるユーザーが、後から入るユーザーからお金を巻き上げるような仕組みになっている、という指摘もある。ゲーム内にカジノがあるため、ギャンブルの扱いも問題だ。ゲーム内通貨の国際法上の位置づけも判然としない。
とはいえSecond Lifeの流行が、RMTの可能性を見いだすきっかけになっていることも確かだろう。「Second Lifeの例は、どのゲームにも当てはまるというわけではない。ただRMTを可視化することは重要だ。アンダーグラウンドのままでは、メーカーにもユーザーにもメリットがなく、法的にも位置づけられない。RMTは今後、ゲーム産業に組み込まれていくだろう」(新さん)
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