「ネットは遊び場」――「字幕.in」を1人で作る25歳・無職:ITは、いま――個人論(1/3 ページ)
「大人はネットをビジネスで使っているかもしれないけど、ぼくにとっては遊び場」――「字幕.in」など50以上のサービスを1人で運営する25歳無職の男性はこう語る。新サービスを作り、誰かが使って反応をくれるのが、とにかく楽しいという。
YouTubeの動画に字幕を付けられる「字幕.in」、mixiやGREEなど人気SNSの会員数をリアルタイムで算出する「SNS統計ページ」、2ちゃんねる風掲示板サービス「2ちゃんねる2」――リリースのたびにネットを騒がせたこれらのサービスは、矢野さとるさん(25)が、個人で作ったものだ。
矢野さんは、サービスポータル「satoru.net」の管理人で、個人で運営するサービスは50以上。合計ページビューは1日500万にも上る。
これだけのサービスを運営している矢野さんは、会社員でもなく、個人事業主でもない。「職業欄に『無職』と堂々と書いています」。一部サービスに広告をはっており、そこから上がる広告収益だけで何とか食べていっている。
19歳で地元・福岡に就職し、21歳で上京。ヤフー、ライブドアなどネット企業を渡り歩いた後、昨年末、無職になった。組織に縛られず、好きなサービスだけを作っていける今の環境が、結構気に入っている。
「Webに出合ってなかったら、何してただろう……。今の時代に生きてなかったら、本当、ヤバかったと思いますよ」
学生時代は悶々と過ごした。「数学で2点とか取ってた。本も読まないので語彙も少なく、日本語もまともにしゃべれなかったほど。まるで“のび太”です」
高校のころWebに出合い、サイト構築にのめり込んだ。受験勉強もせず、ひたすらHTMLをいじっていたら、大学受験に失敗。予備校に通ったが、予備校から追放されてしまう。追放の原因も、Webサイトを作ったことだった。
サイト作って予備校追放
「HTMLとたわむれているのが、とにかく楽しくて」。パソコン部の部長だった2つ年上の兄の影響で、中学のころ、PCを触り始めた。地元のISP「めんたいネット」でパソコン通信を楽しみ、MS-DOSをいじってプログラミングに親しんだ。
本格的にハマったのは高校時代。「ジオシティーズ」でホームページ作りを知り、HTMLの本がボロボロになるまで調べまくった。CGIも学んだし、フリーのスクリプトを探してきて置いてみたりもした。サイトに人が集まり、「面白いですね」なんてコメントをくれるのが嬉しかった。
ネットに夢中になりすぎ、大学受験に失敗。地元の予備校に通いながら、またサイトを作った。予備校仲間が集まって志望校について語り合ったり、講師をランキングで評価したりするコミュニティーサイト。予備校名と同じドメインで運営し、冗談半分で「Domain for Sale」と書いてみたりもした。サイトは話題になり、予備校生で盛り上がった。
だがある日予備校で「予備校名ドメインのサイトを作っている生徒がいるようだが、法的に問題があるのでやめるように」という内容の館内放送が流れた。それを聞いた友人が「やめろと言われているぞ。大丈夫か?」と矢野さんのもとに集まったため、サイトオーナーが矢野さんだとバレてしまった。
矢野さんは学長に呼ばれ、サイトを閉鎖して謝罪し、ドメインを無償譲渡するよう説得された。譲渡や謝罪を渋ると、予備校から「名誉き損で訴える。紛争処理機関にも裁定を求めている」などとする内容証明郵便が届き、事態は泥沼化。最終的にドメインを無条件で譲るという条件で示談となったが、矢野さんは予備校を強制退学になった。
大学受験をあきらめ、しばらくふらふらした。ヤフーに憧れ、意味も分からず中途採用に応募し、落ちたりもした。その後、地元福岡の新聞社・西部日刊スポーツでWeb担当アルバイト募集の求人を見つけ、同社に就職。サイト構築の技術を生かし、ニュース更新ツールなどを作った。
その間にも、趣味でサイトを作り続けた。2ちゃんねる型掲示板「2ちゃんねる2」の原型は、そのころ作ったものだ。
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