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(1)アピール不足だったかもしれない──自主規制の現場同人誌と表現を考えるシンポジウム(3/5 ページ)

警察庁研究会の報告書に登場した「同人誌」「同人誌即売会」。著名な関係者が集まった「同人誌と表現を考えるシンポジウム」では、意外に知られていない印刷所や即売会主催者によるチェック=自主規制の現状報告や課題が話し合われた。

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第1部「今、どうなっているのか?〜現場からの発言〜」

 第1部では同人誌即売会(いわゆる「イベント」)の主催者、同人誌の注文を受けている印刷業者、同人誌を常設店舗で販売している書店から担当者が集まり、現状について報告した。議論に先立ち、出席者がそれぞれの立場から現在の対応などを話した。

武川優さん*4日本同人誌印刷業組合) 日本同人誌印刷業組合には全国で29社参加しています。コピー誌を除くオフセット印刷などの同人誌の製造量のうち、組合が占めている量というのは80〜85%だと思います。

 印刷所と(表現の)修正ということですが、コピー誌は別として、同人誌は印刷所を通過しないと陽の目を見ない存在であると。誤解を恐れずに言えば、われわれの修正基準をクリアしなければ発行されないことになるわけですね。「花のお江戸に出たければ、箱根の関所を通らなければいけない」ということになるわけで、それだけ重い位置にいるのだと思っています。

 修正基準は、やはり印刷所は基本的にはコミックマーケットの基準が頭にある。それがいいか悪いかは別として、現実問題として一番分かりやすく、浸透し、かなり守られていると思ってます。私自身も、原稿が目の前に来た時、コミックマーケットがこれをどう考えるのかということについては、たぶん100%近く分かっています。

 補足すると、われわれは日ごろ検討・学習していて、例えば同じ原稿を組合の全社に配って、それぞれに修正してもらって、それを印刷して、全社に配布して、「なるほど、他の印刷所はこんな風にしてるんだな」ということを確認しあう、そんな風にしてすりあわせていくということもやっています。

 確かにほんとに露骨な、わいせつな文書・図画になるようなものもあったりするわけですが、「これはうちでは印刷できないよ」とはねつけるということは基本的にやめようということにしています。はねつけてしまうとほかの、コミックマーケットの基準を知らない印刷所に持ち込まれて印刷されてしまうということになってしまう。

 ですから、どこが基準から外れるのか指摘して修正してもらう、あるいはこちらが修正して印刷をする。時には「ウチではコミックマーケットの基準に合っていてもとても印刷できない」と、もっとソフトでなければと思っている印刷所もありますから、その場合は印刷所同士で「おたくだったら刷れますよね」と回し合ったりするようなこともしています。

鮎澤慎二郎さん*5虎の穴) 当社が同人誌販売を始めてから10年近くたっていますが、当然、始めたころからあらゆる基準とかが決まっていたかというと、まったくそうではありません。例えば印刷所様や即売会様との関係であったりとか、流れの中をさまよいながら、だんだんと形作られ、今もまだ社内的にもすべてが確定しているわけではない中で、それでも基準を決めながら業界全体をよりよくしていきたいというつもりで同人誌の販売をやらせていただいております。現段階で14店舗構えており、全店舗で同人誌を販売しています。

 作品をお預かりする際の基準を説明させていただきますと、作品をまずいったん見せていただくところからスタートしまして、法的な基準を遵守しながら、作品の内容のチェックや、作品の入荷後に問題が発生した場合の対応をしています。ただ表現基準が非常にあいまいであったり、自分自身もとらえ方のすべてが合っているのかというと、なかなかそうではないなという認識の上で何重かのチェック項目を設けています。ただ、それでも抜けてしまったり、もしくはサークル様に分かりづらい部分があるということも認識していますので、指摘をいただきながら進めています。

 書店の販売スタイルも徐々に変わってきていますし、業界全体の状況も移り変わっていることを、ここで6年間働いて肌で感じる部分は非常に多くあります。作品の中身にまで踏み込んでお話する時間はないですが、そういったものも含めて変わりつつある中で、われわれもサークル様に訴えていかなければならない部分が出てきたかなというところもありますし、印刷所様との連携もより強く持っていかなければいけないのかなという認識もしております。

 やはり作品が生まれる場所としては即売会という場所が非常に大きく、われわれも即売会に出た作品を基本的にお預かりしていますので、取り扱いの基準や作品の紹介に当たって、即売会様の基準を一緒にお話させて頂いたり、サークル様を通じて、その段階で止められないかという話をしています。

 実例としてあったのは、表現的に難しいとしてイベント側で販売差し止めになったものがあり、書店でもそれは販売できないだろうと。基準が単独だと思われがちではありますが、全体で考えていかなければならない課題であるという認識の上で、サークル様と一般のお客様に不利益にならないような形というのを求めていきたいと考えております。


*4 武川優(日本同人誌印刷業組合) 印刷会社緑陽社社長。マンガ同人誌の初期から同人誌の印刷に携わる。2005年より、同人誌印刷会社の業界団体である日本同人誌印刷業組合の理事長を務めている。

*5 鮎澤慎二郎((株)虎の穴) 2002年虎の穴入社。その後、同人誌担当として「個人出版課」に配属となり、2004年に責任者となる。2006年営業統括部の責任者となり、商業を含む業務を監督。

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