Wiiで引きこもり克服も――精神医療にゲームを活用
Wiiのプレイを通じて引きこもりを克服したり、オンラインゲームでうつ病から脱したり――精神医療の現場でゲームを活用している香山リカさんが、実例を語った。
「ゲームのネガティブな面ばかりではなく、有効利用されている事例も知ってほしい」――デジタルゲームの国際学術会議「DiGRA2007」で9月27日、精神科医の香山リカさんらが、精神医療やリハビリテーションの現場でゲームを治療に活用した事例などを紹介した。
香山さんは1990年代半ばから20例ほど、精神医療でゲームを活用した治療を行っているという。「ゲームによってやればできるという自信がつくことが重要なポイント」と香山さんは語る。
例えば、対人恐怖で「引きこもり」だった女性のケース。家族に勧められWiiのスポーツゲームを始めた女性は、ゲームが上達するにつれて家族から評価されることが自信につながり、顔の表情が徐々に明るくなった。その後は、アルバイトに出かけるまでに回復したという。
また、相手の気持ちを想像するといったコミュニケーションが苦手なアスペルガー症候群患者の男性は、友人ができないことに悩んでうつ状態になっていたが、香山さんに勧められてオンラインゲームを始め、ゲーム内のユーザーとチャットで短いコミュニケーションをするようになった。男性はもともとゲーム好きだったという。
「この男性の場合、相手の気持ちを想像するのが苦手だというコミュニケーション上の不得意な部分は、短いチャットなら現れにくかった。ゲームやオフ会などで他ユーザーと会話し、相手に受け入れられるという経験を重ねたことで、うつ状態が改善された」と香山さんは説明する。
「精神科医を訪れる患者は、現実世界に対して疎外感を持っていて、例えばアルバイトやボランティアなどに参加することに抵抗があることも多い。ゲームなら気軽に始められるし、練習してレベルが上がれば達成感が得られるという特徴もある。ゲームが治療で活用される事例はまだまだ少ないが、使い方次第でゲームならではの特徴が治療に有効に働くことがあるということを知ってほしい」(香山さん)
また香山さんは、16歳の娘が父親を斧で殺害した疑いで逮捕された事件について、人気ゲームとの関連がメディアなどで指摘されていることに懸念を示した。
「ゲームが子どもを夢中にさせるということは、さまざまな魅力や可能性も秘めているということだと思う。ネットなどでは、ゲームと事件の関連を安易に強調することに対して批判する動きも起こっている。ゲームの悪影響論ばかりではなく、ゲームが与える良い影響についても今後注目してほしい」(香山さん)
ゲームの教育利用に関する研究などを行っているお茶の水女子大学の坂本章教授は「暴力的なシーンのあるゲームが、子どもに影響を与え、犯罪を引き起こす要因になることがあるかもしれない。しかし子どもが問題行動を引き起こすには、友人関係や生育環境などさまざまな要素が影響するのであって、ゲームが与える影響は要因の1つでしかない」と話した。
整形外科医の高杉信一郎さんは、高齢者のリハビリなどにゲームを取り入れてきた。ナムコがリハビリ向けにカスタマイズしたもぐら叩きゲーム「ワニワニパニック」などを使って、楽しみながらリハビリをすることを勧めている。
「リハビリにゲームを取り入れた患者さんの家族から、『ただ遊ばせているのか』と怒られたこともあったが、ゲームを使って継続的にリハビリを続ければ、効果が現れる。ゲームの有効活用に対する理解をもっと広めたい」(高杉さん)
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