mixi規約改定問題 「ユーザーが著作者の時代」にまた繰り返す大騒動(2/2 ページ)
「mixi日記が勝手に書籍にされるのでは」――mixiの規約改定がネットで大騒動に。ユーザーの著作権意識が高まる中、著作権に関する規約改定は慎重に行う必要がある。
「このケースは、著作権法20条2項4号の『著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変』に当たるだろう。わざわざこのような規定を設ける意味が分からない」(栗原さん)
しかしもっと大きな問題は18条の1「ユーザーが日記などを投稿する場合、ユーザーはミクシィに対して、その情報を国内外で無償・非独占的に使用する(複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変等を行う)権利を許諾するものとする」――つまり著作財産権(著作物を使用、収益する権利。複製、上映、公衆送信、展示、頒布権など)の無償利用をミクシィに認める、という内容にある。
新規約、行き過ぎでは
「ミクシィの説明通り、無断で書籍化するなどといった意図がないなら、著作財産権全体に対する許諾を要求する必然性がよく分からない」と栗原さんは言う。
ミクシィは「日記のバックアップのための『複製』」「日記を他ユーザーなどに見せる際の『公衆送信』」を、ユーザーに無許諾で行うため、18条の1を定める必要があったと説明している。だが栗原さんは「利用規約に『こういう行為をするのでいいですね』と具体的に書けば済む話」と指摘。例えば「mixiサービスの運営に必要な範囲で、複製・再配信することを許諾する」などと、範囲を限定した規約で足りたはずで、「複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変などを行う」権利をすべて許諾させる必要はなかっただろう。
他ブログサービスの規約では実際、利用範囲を限定した上で、ユーザーの著作財産権の無償・無許諾利用を定めている。例えばlivedoor Blogの場合は「ユーザーのブログとそれに付随するコメント、トラックバックは、ブログを作成したユーザーに著作権が発生する」と確認した上で、「宣伝、利用促進、出版、マーケティング等を目的としブログサービスの著作物を使用する場合、ユーザーはライブドアに対し、著作物を無償利用することを、期間無制限で非独占的に許諾する」と、具体的な利用範囲を明示している。
2ちゃんねるの投稿の著作権は「掲示板運営者に譲渡」される
ちなみに「2ちゃんねる」の規約はこれらとはかなり異なる。著作者人格権の不行使を定めているのは同じだが、(1)書き込みの著作権を2ちゃんねる運営者に無償譲渡した上で、(2)2ちゃんねる運営者が投稿者に複製、公衆送信、頒布、翻訳する権利を許諾する――となっている。
つまり、書き込みの著作権は2ちゃんねるが譲り受け、その後、2ちゃんねるが著作者として、書き込みした本人に使用権を付与する、という形だ。
この規約の意図について管理人の西村博之氏は「2ちゃんねるは自由に使ってほしいが、自分の知らないところでコンテンツがタダで再利用されたり、書籍や映画にするのはやめてほしい」という意図だと書籍「2ちゃんねるで学ぶ著作権」(P178)で説明している。2ちゃんねる側が著作者としての権利を持つことで、無断書籍化などを差し止める権利を保有する――という狙いがあるそうだ。
同じ過ち、なぜ繰り返す
本当にミクシィは、ユーザーの日記を無断で書籍にしないのか――この規約のままでは不安が残る。
ミクシィの広報担当に18条改定の真の意図を尋ねても、「mixiサービスが多様化したため、規約全体を大幅に改定した。18条だけの問題ではない」と繰り返すばかり。規約の再改定の可能性を尋ねても「ユーザーが利用しやすい内容になるよう引き続き検討していく」と、はっきりした答えがなかった。
投稿サイトの著作権に関する、サービス運営者とユーザー間のトラブルは、過去に何度も繰り返されてきた。01年にはジオシティーズ(現Yahoo!ジオシティーズ)で、04年にはgoo ブログやlivedoor Blogで、06年にはドリコムブログでそれぞれ、著作権に関する新規約がユーザーの反発を呼び、規約改定を迫られた。
こういった歴史を踏まえながら、日本最大のコミュニティーサイトであるミクシィがなぜ、今回のように強引な規約改定に踏み切り、十分な説明もないまま押し切ろうとしているのか――
ユーザーが自らの著作権に敏感になっている今、著作権に関する規約改定は最も慎重に行うべきだ。「ユーザーの著作物を無償で利用する」といった強い権利を求めるのであれば、一方的に規約の文言を書き換えるだけでなく、なぜそれが必要なのかをユーザーが納得いくまで説明を尽くす必要がある。そうしない限り、ユーザーは離れていくだろう。
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