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「カピバラさん」ヒットに見る“女だけチーム”の底力(2/2 ページ)

ゆるキャラで人気の「カピバラさん」は、落書きから生まれた。ヒットまで約5年。女だけのチームの、ねばり強いチャレンジが実を結ぶ。

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 キャラを売り出すための手段には、テレビアニメ化やゲーム化、書籍化などがある。だがテレビやゲームはコストがかかる上、ターゲット層であるOLに届きにくいのでは――じっくり手に取ってもらえる書籍化に狙いを定めた。

 書籍で魅力を伝えるため、白紙だった「カピバラさん」の世界観が、練りに練られることになる。

 「カピバラさんならいける」という自信はあった。だが、キャラビジネスの世界はそんなに甘くないということは、長年グッズの開発に携わってきた経験から肌身で知っていた。だからこそ、組織として結果を出さなければ。遠藤さんは悩んだ。

 書籍化に向けて奮闘していたころ、トライチームは「ちびギャラ」(ゴマブックス)という絵本のキャラに目をつけ、キャラ育成とグッズの商品化に着手。こちらはヒットし、年間約3億円の売り上げを叩き出した。

 この実績を引っさげ、トライチームは「カピバラさん」を本格デビューさせることに。カピバラさんの落書きが書かれてから、すでに2年以上の月日が過ぎていた。

テスト販売で飛ぶように売れる

 05年7月、ようやく決まった書籍化と同時に、第1弾としてぬいぐるみの販売を行うことになった。著者名は「TRYWORKS」。「トライチームの作品」という意味を込めてつけた。

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第1弾書籍

 ぬいぐるみは、見た目はもちろん素材や毛の長さにまでこだわった。キャラモノは売り場が勝負。パッと見で選ばれる必要があるのだ。試作品は5回直させ「TRYWORKSは品質チェックが厳しい」と噂されるようにすらなった。

 同年8月に、ぬいぐるみを「ロフト」や「キデイランド」など関東中心の11店舗で、1カ月間テスト販売――置いてはもらえるものの、売れなければ全部引き取る――することになった。人気キャラがひしめく店内で実績のないオリジナルキャラを売り切るというのは難しいだろうと、誰もが思っていた。

 ところが、ふたを開けてみるとカピバラさんは飛ぶように売れ、2週間後にはすべての店舗の商品が完売したのだ。「カピバラさんならいける」――遠藤さんの自信が、確信に変わった瞬間だった。

渋るバイヤーを説得した「実績」

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リモコンでとててて……カピバラさん

 この成果をもとに、ぬいぐるみ以外にも商品展開していこうとライセンシーを回り始めたが、どこも反応は厳しかった。特に文具メーカーは、ディズニーなど誰もが知っているキャラクターでない限り、ノーブランドで出したがる傾向があった。ロットが大きく、売れなかった時のリスクはメーカー側が持つことになるためだ。説得は難航を極めた。

 そんな中、電池で動くぬいぐるみなどを製作するイワヤが、有線リモコンでカピバラさんのぬいぐるみを動かすおもちゃ「リモコンでとててて……カピバラさん」という商品を作ってくれることになった。この商品が大ヒット。キデイランドやロフトの売上ランキングに続々登場したのだ。

 バイヤーたちが他社にカピバラさんを紹介してくれるようになり、ライセンシーの反応が徐々に変化し始めたのだった。

 1年前ごろから、流れは大きく変わった。自分たちで売り込む前に、ライセンシーから声がかかるようになり始めたのだ。ペンやメモ用紙、シール、湯たんぽ、根付けなどなど、ライセンシーから持ち込まれる商品点数も急増。1日に5、6点が監修物として持ち込まれているという。

 チェックはたった2人で行っているため、今もてんてこ舞いだ。「クオリティ基準を下げれば作業はもっと減るんですけどね」と言いつつ、遠藤さんは決して妥協しない。

「雑音がない」「数字がない」 成功の秘けつは

 トライチームは、携帯電話サイトを通じて、ポストカピバラさんとなる新たなヒットキャラクター作りにまい進している。

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ウサパン

 05年11月から女性向けフリーペーパー「L25」(リクルート)の携帯サイトで、カピバラさんを含むオリジナルキャラクターの4コママンガの連載を開始。携帯漫画配信サイト「まんちゅ」(ソニーデジタルエンタテインメント)でも、オリジナルキャラ「ウサパン」のコミックを連載中だ。

 なぜトライチームでヒットが生まれたのだろうか。

 「本社と別の場所で仕事ができ、雑音がなかったことが一因」と遠藤さんは話す。社内にいれば嫌でも聴こえてくる売上目標や会社の方針から一歩引いて、自由な発想で業務に取り組めたというわけだ。

 そして、もう1つ成功の理由があるという。それは意外にも、「いわゆる『数字』の目標がなかったこと」(遠藤さん)だという。

 もともと市場調査目的で立ち上げた組織で、他部署を支援するという任務があった。しかし、遠藤さんは言う。「わたしは小さな会社の社長みたいな存在。ここを畳まないようにと懸命でした」

 新規プロジェクトといえば「何年後には○億円の売上規模に」というプレッシャーがかかりがちだ。さらに、女性だけの部署ともなると何かと注目されやすい。この2つがうまく回避されたことで、かえってメンバーが一体となった。女性だけのプロジェクトチームがうまく成果を出すヒントは、このへんにあるのかもしれない。

 「キャラは人気が出るころよりも、人気を維持するほうが大変。これからが本当に大切な時期。カピバラさんを長く愛されるキャラクターに育てたい」と遠藤さんは言う。

 「カピバラさんで世の中を席巻したいですね」(遠藤さん)

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