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違法と合法の敷居があいまい──作り手から見た「YouTube」、ガイナックスに聞くおもしろさは誰のものか(1/3 ページ)

作品は、なるべく多くの人に見てもらいたい。だが、YouTubeにアップされ、DVDが売れなくなれば、作り続けられなくなる――ガイナックスの版権部長は、YouTubeや海賊版への複雑な思いを吐露する。

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 ファン活動の世界では、商業作品のキャラクターを許諾を得ずに使用して、コンテンツをつくることが行われる。これは著作権侵害といえば著作権侵害なのだが、しかし「キャラクターの使用をともなわないファン活動がそもそも可能なのか」と考えると、それは無理なように思われる。

 同人誌の世界では商業作品のキャラクターを自作品に用い、しかも対価をとって販売するということが長らく行われてきたが、こうした「グレーゾーン」の活動が商業作品の人気を盛り上げている、あるいは新たな才能を生み出す土壌になっているという認識もあった。

 だが、実はファン活動のすべてが、グレーゾーンで行われてきたわけではなかった。たとえばアマチュアによる立体造形物、ガレージキットの世界では、当日、イベント会場内限定で、個人でも版権を獲得できる「一日版権制度」といったシステムが、ライセンサー(ラインセスを提供する側)、ライセンシー(許諾を得る側)の双方で考案され、そのシステムを用いて「ホワイトゾーン」でのファン活動が行われている。

 なぜ立体造形物では、このような制度が生まれたのだろうか。その理由を、ガイナックスの版権部門を統括する神村靖宏氏は「同人誌は市場商品と競合しないが、立体造形物は競合する可能性があった」と指摘。一日版権制度のようなシステムがつくられたのはプロ、アマチュアの双方にとって幸福なことだったと語った。

 では、コピーはどうだろうか。そして、作品を録画し、それをネット上にアップロードしてしまうことは。これはこれでファン活動であり、作品の告知になるという主張もある。しかし市場商品との競合という観点でみると、常に視聴できるようにアップロードされたファイルは、直接、DVDなど映像パッケージ商品と競合することになるだろう。こうしたアップロードについて、作品のつくり手側はどのように感じているのだろうか。著作権の未来像をさぐるITmedia News、MouRaバチェラーズニュース共同企画「おもしろさは誰のものか」、ガイナックス神村氏インタビュー、後編である(→前編:“同人出身”ガイナックスが語る、同人誌のグレーゾーン)。

観てもらえたほうがうれしい……、が

 アニメーションの場合は、作品をつくるためにある程度の資本規模が必要なんです。だから次の作品をつくるためには、以前の作品に投じた資金を回収できていないといけない。だからコピーによる配布が行われてしまうと、我々の商業構造がまわっていくプロセスを阻害してしまうので、困るというのはあります。ただ、この話題はかなり微妙な問題が多いですし、私にも業界を代表した意見を言えるだけの見識はありません。ですから会社の意見ではなくて、私個人の考えを述べるのみですが……。

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写真:金澤智康

 僕らの気持ちの半分では、無料でオンエアした映像なんだから、なるべく多くの人に観てもらいたい。だからYouTubeなどでいつでも観られる状態になっているのは、ある側面では望ましいことかもしれない。そうなっていることでライトなユーザーにも「グレンラガン」を観てもらえますから。特にクリエーター連中は、「観てもらえたほうがうれしいよ」という志向が強いでしょう。

 しかしたとえば「グレンラガン」という作品を僕らがつくりおおせることができたのは、ガイナックスというスタジオが経済的に維持できていたからだし、それは「エヴァンゲリオン」など過去の作品からのライセンス収入があったからなんですよ

――海賊版の問題は思いのほか大変で、アジア圏だけではなく、ヨーロッパでも海賊版が流通しているそうですね。

 ひとつの意見として、そうした違法コピーが横行するのは「日本のDVDパッケージが高いから」というのはありますね。ハリウッドの映画が2000円、3000円で買えるのに、無料で放送されたアニメ番組が2話入って、なんで6000円なんだ(笑)。

 だから「俺たちがコピーをするのは、DVDが高いからだ」という人がいらっしゃいますけど、しかしそれは僕は、8割はウソだと思うんですよ。そういう人たちは、たぶん安くても買わない。むしろ安くなったときになにが起こるかというと、DVDの価値を軽くみて、より気軽にコピーするようになって、もっともっとコピーをばらまくと思います。あの方々は。

 僕らの業界は、つくっている側自身が一番ヘビーなファンでもあり、消費者でもある。なぜアニメをつくるかというと、好きだからつくっている。そんな業界なので、「このアニメで儲ける」という言葉が、なにか後ろ向きに響いてしまうところがあります。じゃあ儲けることを考えずに、好きだという気持ちだけで、個人個人が飲まず食わずでつくる、というのも選択肢としてはアリかもしれないのですが、やはり継続的にアニメをつくっていくためには、ある規模の資本回収が行われないと厳しい。そのために日本のアニメーションでは、現状ではDVDパッケージがあの価格設定になっています。

 アニメーションとハリウッド映画では、構造が違います。アニメというものも大衆のための娯楽ではありますけども、いいことか悪いことかは別にして、今のアニメはある程度、観る人を選んでいるでしょう。だから価格設定を変えたとしても、アニメのDVDの場合は売れる枚数は、実はそんなに変わらないと思うんです。

 こういうと語弊があるかもしれませんが、わざわざDVDを手元において、再生したいときに再生したいというニーズはかなりマニアの発想ではないでしょうか。なければそれはそれですむものじゃないですか。その意味でアニメのDVDは嗜好品なので、そうした嗜好を支える商業では、ある程度高い値段になってしまうのは、仕方がないところがあるのかなと思うんです。

 高いから買えないという方々は、そうしたメディアで観ていただければと思うんですよ。テレビ放映を自分で観てくださいと。もし面白いと思えばオンエアを録画されたらいいと。ただ、それをコピーして配布されると、それは商業化。次の作品をつくっていく流れを、阻害してしまうので非常に困ります。

モデルを見直さなければならないところに来ている

――よく、同じコンテンツを携帯と紙で配信したとして、両者の市場はほとんどかみ合わないといいますね。携帯でこれだけ売れたから、紙のパッケージの売り上げが減ったということはないと。同じように、アップされた動画を観る人とDVDを買う人もまったくかみ合わないと考えることは、可能ではありますね。

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