老舗・松竹、自前で映画ネット配信 名作を有効活用、ファンの声を新作にも
松竹が、自前サイトを構築して映画の有料配信を始めた。1921年(大正10年)以来蓄積した2000本以上の映像資産の活性化が狙い。サイトを通じてファンの声を集め、映画制作にも反映させたい考えだ。
松竹が5月21日、映画を有料でストリーミング配信するサイト「松竹 ONLINE」を開設した。これまで「@nifty」や「Yahoo!映画」などを通じて作品を提供してきたが、新たに数千万円かけ、自前でサイトを構築した。
同社は1895年に創業。「男はつらいよ」「釣りバカ日誌」など日本を代表する映画を制作し、邦画界を支えてきた老舗だ。
映画製作を始めたのは1920年。利用できる映像資産は、1921年に制作された「路上の霊魂」をはじめとして約2000本にも及ぶという。
リメイクしか知らないユーザーに、オリジナル版を
サイトでは「二十四の瞳」「麥秋」など人気作品のほか、「男はつらいよ」、吉永小百合さんのデビュー作「朝を呼ぶ口笛」といったネット初公開作品や、ビデオ・DVD化されていない作品も公開する。毎月10〜20本追加し、初年度に200本をそろえる。
料金は、1作品367円で7日間視聴できる「単品コース」と、月額1050円でおすすめ作品が見放題の「月額コース」の2種類。月額コースには映画の割引券や、試写会の招待、映画撮影所の見学といった特典も付く。
過去の作品はこれまで、DVD化したり、映画のイベントで上映するといった方法で活用してきたが、「視聴形態の多様化に合わせ、さらに戦略的・積極的に映像資産をいかしていきたい」と、同社広報室の鄭花玲さんは話す。
最近は黒沢明監督の「隠し砦の三悪人」や「椿三十郎」など、過去の映画作品がリメイクされることも多い。
「リメイク版を通じて旧作にも目を向ける若い人が増えている。松竹 ONLINEで、古い作品をもう一度世に出し、リメイク版しか知らないライトユーザーに見てもらいたい」と、松竹 ONLINEを運営する衛星劇場VOD事業部の船藤了プロダクトマネージャーは狙いを語る。
「ワンチャンス主義」で煩雑な著作権処理不要に
過去の映像作品をネット配信する際は、権利者全員から許諾を得る必要があり面倒――という問題が指摘されてきた(映像・音楽配信を許諾不要に 「ネット権」創設、有識者が提言)。
だが映画については、著作権法上“ワンチャンス主義”が認められている。権利者は、映画に出演した人の許諾を得ることなく2次利用をしやすくなっているため、ネット配信がやりやすいという。監督や脚本家などの原著作権者にも、一定の料率で事後に支払う仕組みになっている。
松竹が単独出資している作品が多いのも、ネット配信を円滑に進められる理由の1つだ。複数の企業が出資して作る製作委員会方式と異なり、他社の許諾を得る必要がないためだ。
映画ファンの声集めたい
サイトには、作品にコメントを付ける機能や、ユーザー同士がメッセージをやりとりする機能も備え、映画ファン同士がコミュニケーションを取れるようにした。「松竹の作品をサイトに集約して、映画ファンの声を自社に集めれば、次の映画作りに反映させられる」と船藤プロダクトマネージャーは期待する。
ユーザー登録時に、生年月日や性別、職業などを入力してもらう。「これまでは劇場に行かなければ、松竹作品を見てくれる人の顔は分からなかったが、松竹 ONLINEならどういう人が見てくれているかが分かる」
5年後までに登録ユーザー10万人、売り上げ10億円を見込んでいる。「映像ビジネスは多様化している。映画会社として何ができるのか、新しい道を探りたい」(船藤マネージャー)
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