「日本人が優しすぎるから」――ニコ動で“育つ”香港の歌姫(3/3 ページ)
歌は下手だと思ってた。ただ日本人の優しさに感動し、その気持ちを伝えたくて「ニコニコ動画」で歌い始めた。「私には歌うことしかできないから」――香港に住む18歳。歌で思いを届けようともがく。
詞の世界に入り込めずに悩むこともある。韓国のりるさんと一緒に歌った「peace of the world」。世界への愛というテーマが大きすぎ、うまく感情を込められずに泣いた。詞を香港の社会に置き換えて考え直し、自分の世界を作り、やっと歌えた。
歌を聴いてよく泣くし、歌いながら泣くこともある。テクニックの練習をする時間より、歌詞の意味を考える時間の方が長い。「初音ミク曲を好んで歌うのは、ミクの声に感情がないから、どう歌っても“正解”だからでは」――あてっくすさんはそう話す。
毎日歌を練習する。筋トレと発声練習、歌の世界を理解するための、歌詞を深く考える練習。ボイストレーニングも始めた。
投稿する歌を決めたら、詞の内容を深く考えながら、1週間ほど練習。歌に自分の気持ちを合わせ、3時間程度かけて録音する。ダメならまた、体調と気持ちが合う日に録り直す。
歌手になりたい
「歌手になりたい」――そう思い始めたのは最近だ。「音楽が好きになったから。音楽の作り手の気持ちも、分かるようになってきた。私の歌を聴いて作り手が喜んでくれたら、歌ってよかったと思う」
最近歌った初音ミク曲「つきうさぎ」(OSTER Project作詞作曲)。泣きながら歌った。「天才しか作れない曲。つきうさぎを聴いて、歌詞を読んで、音楽はすばらしいと思った」
NHKの番組「ザ☆ネットスター」でもつきうさぎを歌ったが、「緊張して声が出なかったし、あんまり感情も入れられなかった」と残念がる。
「顔が可愛くなくて、歌も上手くいけなくて、ファンの皆さんが失望するかもしれない…本当に、すみません。私、もう頑張ったから…(つω⊂) 嫌がれないでください…(;ω;)」――ブログにはそんなふうに書いている。
「歌うことしかできないから」
夏休みが終わり、新学期が始まった。香港の学校は勉強が一番。勉強ができなければ落ちこぼれ扱いで、音楽や美術はほとんど重視されないところが嫌いだという。
「先生に『歌手になりたい』とか『漫画を描きたい』と言ったら、『目を覚まして勉強しなさいよ』と言われて」
両親は彼女の歌が好きだ。「父は私の歌をYouTubeで探してきて、家で大きな音で聴いています。母はよく周りの人に聴かせていて恥ずかしい」
自分の歌が自分でも好き。投稿した曲も、ずっと自分で聴いている。「再生数、自分で増やしてる(笑)」
歌いたい曲はまだまだあるが、受験生だからなかなか時間を取れない。日本の大学に行くことは親に反対されたから、香港の大学を目指している。でもいつか、日本に留学したい。そしていつか、歌手になりたい。
「日本のファンにメッセージはありますか?」――そう聞くとしばらく黙ってしまい、涙を流し始めた。
「みんな優しすぎて……感動する。私はふつうの学生なのに……こんなに人気な人になると思ってなかった。みんなに愛されることにすごく感動する。みんな大好き」
「私は歌うことしかできないから、私の歌でお返しできれば」
ほんこーんさんが出演する「ザ☆ネットスター!」は、9月5日の深夜12時(9月6日0時)にBS2で放送、9月7日の午後11時50分からBS hiで再放送される。
テーマは「ねとすた秋祭り!第1回タレコミランキング」で、視聴者からの“タレコミネタ”を紹介する。ゲストは声優・歌手の桃井はるこさんと、法政大学の白田秀彰准教授。
関連記事
- 日中韓「ニコニコ」コラボ 香港と韓国の“歌姫”、ミク曲をデュエット
日本人が作った初音ミク楽曲を、香港と韓国の“歌姫”が歌い、日本人が編集して公開する――国境を越えたコラボレーションが「ニコニコ動画」で起きている。 - 台湾人が日本語アニソン大合唱 「ニコ動」が生む国際交流
台湾人258人が大学の講堂に集まり、アニメソングを大合唱する――こんな動画が「ニコニコ動画」で人気を集め、“日台友好”に一役買っている。 - 「日本人と仲良くなりたい」――「ニコ動」でアニソン歌う、韓国人の女の子
「ニコニコ動画」に海外からの参加者が増えている。ある韓国人の女の子は「らき☆すた」の曲を日本語で熱唱して投稿。韓国嫌いの一部ユーザーからひどい中傷を浴びて傷ついた。だが応援してくれたユーザーの声に応え、また新しく1曲歌って公開した。 - 遅く来た春 ミク×ニコ動がうんだ36歳の人気者
普通の会社員が、急に人気者になった。「初音ミク」「MEIKO」で作った曲をニコニコ動画で発表したことがきっかけ。「この年になってチヤホヤされることになるなんて。自分でも不思議で、信じられない」 - 「ニコニコ動画で、出口が見付かった」 絵描き兼開発者・24歳
1人で描いていた。誰にも見せず、ただHDDに貯めていた。ある時ふと「ニコニコ動画」で公開した。コメントが付き、人気動画になり、絵本のオファーが来た。「描くときの気持ちは何も変わらない。でもニコニコ動画に投稿して、出口が見付かった」
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.