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最強の肉食系男子――武士にとっての「自由」とは対談・肉食と草食の日本史(2/2 ページ)

武士という最強の肉食系男子が享受していた自由は「殺される自由」でもあった。現代の規制緩和が実現する自由も、草食系男子には生きにくい、肉食系の社会だ。

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本郷 実際に、そうして規範というものは、はぐくまれてきたのだと思います。規範というものは自分を縛るものかもしれないけれど、同様にして自分を守ってくれるものでもあるわけです。

 これは非常におもしろいなと思った話なんだけれど、諸外国から見た日本というのは、ある意味で「歴史の実験室」と言える存在だそうですよ。なにしろ海に囲まれて、外敵は来ない、戦国期以前は性病も輸入されていなかった。気候は暑くもなく寒くもなく、総合的にちょうどいい環境。

 世界史のテリトリーで、自然状態では人間はいかにして生きてきたのか、ということを調査するための最良質なサンプルになるそうなんです。

 この国では人間の生(なま)の状態が見られるわけで、そうするとホッブズのいう「万人の万人に対する闘争」という状態が露骨に現れてくる。そんな状態では、人間は王様をまつりあげて、その庇護の下で生きたほうがラクなんだぜと思えてくる。

 事実、江戸時代のような規範が厳しい時代があったほうが、人口を大きく増やすことができた。こうした歴史の視野を持つことは大切だと思います。

堀田 現代はずいぶんといろんな価値が流動化し、自由になりましたが、一方では自殺する人が年間で3万人を越える。うつ病が時代の病気になりました。実は、「なんでも自由にやっていいよ、結果は全部君のものなんだから」と言われて、がんがん決断できる信長のような人は、本来ごく少数なんですよね。「日本人は個が確立されてないから」とかではなくて、これはキリスト教でも言ってます。

本郷 「自由」という概念が“freedam”の邦訳として日本にもたらされたのは明治時代に入ってから。以来「自由」は尊いものとして捉えられてきておりますが、実は江戸時代までの日本人には、「勝手気まま」という言葉を悪いイメージで捉えてきたという歴史があります。日本人の素地からすると、「自由」は非常に厳しいものなんです。

 すべてのものを自由に……と考えると、それは近世をすっ飛ばして中世時代に戻ってしまう。これは国際政治学者の田中明彦さんがおっしゃっていましたが、グローバリズムが進んで、国境が希薄になったこの現代は、新しい中世になっていく、という言い方すらあります。そして中世をネガティブに捉えると、それは完璧なる弱肉強食の世界になる。

 ですが少なくとも中世、近世までは神さま仏さまがいたんです。すがる宗教があった。しかし現代には宗教もない。まあ生きにくいわけですよ。

堀田 田中さんは、本来、国家に対して使う「戦争」という言葉を、アメリカが非国家組織に使っていることを、新しい中世への兆候として指摘していらっしゃいましたね。ちょうど、ジオン公国没落後、非国家組織との戦争へと移行した宇宙世紀の歴史のように……って、なんでもガンダムにたとえるのは、悪い癖ですが。

 しかしはて、鎌倉仏教みたいに「南無阿弥陀仏を唱えれば悪人だって救われる」とか、そういうありがたい教えはないでしょうか。イケメンだって救われる、ましてやブサメンをや、という。

本郷 そこが日本人のつらいところで、明治時代に宗教をなくしてしまったですからねえ。江戸時代までのように、南無阿弥陀仏で救われるような論理構成の宗教を、今の日本人は持っていない。わりとそこは現実的に対応してきたんですね。

本郷和人

 1960年、東京都生まれ。東京大学史料編纂所准教授。「武士から王へ―お上の物語」(ちくま新書)、「天皇はなぜ生き残ったか」(新潮新書)などの著書のほか、「センゴク バトル歳時記」(講談社)などの編著書もある。アカデミズム界の気鋭でありながら、娯楽領域でも活躍する歴史学者。近刊は「武力による政治の誕生」(5月6日刊、講談社選書メチエ)。


堀田純司

 1969年生まれ。作家、編集者。編集者としては「吉田自転車」「えの素トリビュート」「生協の白石さん」などの書籍を企画編集。ライターとしては「萌え萌えジャパン」「人とロボットの秘密」「自分でやってみた男」(講談社)などの著作がある。哲学や政治経済、「体験型映画紹介」など、取り上げる範囲は幅広い。近刊は7月に「生き残る専門誌」(仮)が講談社より発売予定。


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