「え、どうしよう」から一転 「イトカワ」サンプル回収の意義と“ドキドキ”(2/2 ページ)
はやぶさのカプセル内部は「とてもきれい」だったが、空っぽだと分かると「真っ青になった」──小惑星から“生”の状態のサンプルを手に入れたことで、「新しい学問が立ち上がる材料になる」と期待する。
はやぶさの旅のように「波瀾万丈でハラハラドキドキ」
「イトカワ由来のサンプルがありそうだ」「いや、なさそうだ」――サンプルの回収作業は、はやぶさの7年間の旅と同様「波瀾万丈でハラハラドキドキ」。最後に「非常にうれしい結論にたどりつけた」と、藤村教授は話す。
へらを操作した東北大学大学院の中村智樹准教授は「A室の右側半分、決められた範囲を優しくなでるように、粒子がひっついていることを願ってスイープした。へらを持つ手は震え……なかった。冷静だった」と振り返る。
電子顕微鏡での解析で最初に見つけた岩石質の粒子は「かんらん石」。「かんらん石だけだと地球のものとも宇宙のものとも断言できないが、これを見たときは非常にうれしかった。分析が進むに連れ、地球上にあまりない物質が見つかったので、確信を深めてきた」(中村准教授)
当初は「何百ミリグラム」(JAXAの向井敏典技術参与)単位のサンプル回収を計画していたが、回収できたのは「1500個集めてもマイクログラムのオーダー」(向井技術参与)。ただ「今の微量分析の技術は相当なもの」で、基本的な分析は、現在のサンプルだけで「十分可能」(中村准教授)という。
新しい学問が立ち上がる材料に
見つかったイトカワ由来の微粒子はまず、国内で精密な分析にかけて分類し、カタログを作って世界各地の研究者に広報。世界中で分析・研究してもらう予定だ。
「隕石学の基盤の上に、新しい学問が立ち上がる材料を手にれることができた」と藤村教授は言う。隕石は地球上で水や大気と反応したりショックを受けたりしているが、カプセルに守られていたイトカワのサンプルはそういったことがない。「小惑星と隕石の関係を明らかにできる。隕石学で分かっていたことを凌駕し、隕石にはなくなってしまったものが見つかる可能性が高い」(藤村教授)
茨城大学の野口高明教授によると、小惑星由来の隕石は、ある程度は小惑星の内部にあったものと考えられる。だがはやぶさが持ち帰ったサンプルは、「小惑星の本当に表面にあった物質。太陽からの放射線の反応など、いろんなことが記録されている。われわれのデータや、天文学の研究者などが持ってるデータを直接比べられるようなデータも取れるのでは」(野口教授)。
イトカワ本体の特性だけでなく、ほかの天体の物質もあるかもしれないと中村准教授は期待する。「まずはイトカワ本体の物質を把握することに集中したいが、表層の物質なので、他の天体の物質がちりとして小惑星の表面に降り積もっている可能性が高い。S型小惑星以外の、ほかのタイプの小惑星や彗星の物質も見つかるかもしれない」(中村准教授)
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