時代は多様性を欲してはいない──コンテンツのクラスタ化と、むしろ画一化:部屋とディスプレイとわたし(3/3 ページ)
「現代人は好みが多様化し……」とよく説明される。だが時代は多様性を求めているのだろうか。「クラスタへの細分化と、そのクラスタの中での画一化が同時に起こっている」のではないだろうか。
3000部規模でも活発な活動を繰り広げるクラスタへの待望
ちなみに私は、この大雑把さにこそ、自分のような人間がこれから暮らしていく鍵があるのでは? と感じます。
クラスタの細分化が大雑把だということは、どのクラスタからもはずれてしまい、もしかすると世の中には「自分向けにつくられたものがないなあ」と思っている人が少なくないかもしれない。たとえば「テレビを見ても同じようなものばかりだ。自分が見たいものがないよ」というような人が潜在的に層をなしているのかもしれません。なんだか「選挙に行っても投票したい政党がない」という政治の話みたいですね。しかし、そうした状況を踏まえて、今までになかった作品をつくり、そうした層の人々にお客さん集団になってもらうことに成功したコンテンツが出始めているように思います。
また、既存メディアではコストが高く実現できなかったような企画でも、電子書籍のようなデジタル媒体ならできる。それでたとえお客さんが相対的に少数であっても成立するビジネスが、今後実現できるようになるかもしれません(ただ、今のところ電子書籍はまだそこまでの市場規模を持ってはいないのですが)。
実際、長い歴史を持ち、さすがに懐が深い紙の書籍の世界では、プログレッシブロックやゾンビ映画など、マニアックな企画の本を得意にする出版社もあり、そうした会社の販売部では「これこれの企画は、どこそこ書店に配本すれば30部売れる」といった細かいデータを持っていたりするそうです。こうした企画は1万部をこえて売れていくことは難しい。ですが数千部は確実に売れるという、それはそれで結構優良なコンテンツとなるそうです。
大ヒットを生み出すメインストリームは、世の中にもちろん必要で大切なものでしょう。その一方で、3000部の規模でも活発な活動を繰り広げるクラスタが日本中にたくさんできてほしい。面白いことをやっている人はいっぱいいます。そんな活動を生み出す方向にメディアは発展してほしい、と私などは思います。そうした世の中でないと“私が”生きていくことができないので。意外なことに今のところはまだ、そのようにはなっていないようです。
堀田純司 1969年大阪府生まれ、作家。著書に「僕とツンデレとハイデガー」「人とロボットの秘密」などがある。書き手が直接読者に届ける電子書籍「AiR」(エア)では編集係を担当。講談社とキングレコードが刊行する電子雑誌「BOX-AiR」では、新人賞審査員も務める。Twitter「@h_taj」
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