そろそろ「ガンダムUC」という“現象”に気がついたほうがいいのかも:部屋とディスプレイとわたし(3/3 ページ)
心は宇宙世紀に生きているわれわれが改めて刻の涙を見ることになった「ガンダムUC」。それはただ優れた作品であるだけではなく、ひとつの特別な“現象”である──という作家・堀田純司さんの論。
宇宙世紀の円環
そうしたマニアのたわごとはさておき、「ガンダムUC」はこれまで製作されてきた続編と狙いが異なるようです。この作品は、多様な世界を生み出してきた宇宙世紀の歴史を、初作「機動戦士ガンダム」をも含めて、まるごと包含してしまおうとする物語。
「ガンダム」の世界観、宇宙世紀の歴史は、地球を中心にした共同体の秩序を重視する人々と、宇宙に進出した人類の個人の可能性(それはニュータイプへと至る)を信じようとする人々の、闘争の歴史でした。
最初は悪意だけではなかったはずだった。そこに善意もあったはずなのですが、悲しい事件の積み重ねを経て、やがて巨大な憎しみの渦をまき、両者の争いは解決しようのないほど複雑にからみあった、憎しみの連鎖を延々とつむぐことになって行きます。
この戦いの円環を誰も打ち砕くことができず、むしろ「この円環の中で人々があがく姿を描くことこそがガンダム」という感じすらありました。
憎しみの連鎖を断ち切るためには、地球環境を破壊するしかないと考え、地球に小惑星を落とし、戦いの円環そのものを破壊しようとしたシャアですら、その決意をつらぬくことはできませんでした。
しかし「ガンダムUC」では、主人公のバナージ・リンクスは、白い巨人ユニコーン・ガンダムと、さまざまな立場で苦闘する大人たちに出会い、宇宙世紀100年にわたる憎しみの連鎖を受け止め、戦いの円環を閉じようとします。よくもまあ、このようなテーマに挑んだものだと、製作者たちの腹のくくりように呆れてしまいます。
作中、「ラプラスの箱」をめぐる謀略から、封印されてきた時間が再び動き始めるのですが、おそらくそれは1979年の『機動戦士ガンダム』が押し開いた可能性を、再び見据えようとする現実の時間にも重なっていて、正直、「ふつうに面白いんでしょ。じゃあ見るのは全部完結してからでいいや」と考えていた自分でも、先に見ておいてよかったと思います。「UC」という現象を最後まで見届け、完結したときには「俺は前から観てたけどさ」と自慢できそうです。
しかし考えてみれば、「機動戦士ガンダム」の当時、スタッフたちはみんな30代。いつの間にか、見てるこちらはその年代を越えてしまった訳ですが「ジオン・ダイクンの遺児として帰還したら、否応なく反乱の首魁として祭り上げられることに、シャアほど明敏な男が気がついてなかったはずはない。それなのになぜ」とか、今でも真剣に考えてしまう、魅力的な宇宙世紀の世界。
このまま行くと、70歳になっても「シャアは戦争生き残りの戦士たちに“死に場所”をつくろうとしたのじゃ」などと飲み屋で語っていそうです。その時はどうぞ話し相手になってやってください。
堀田純司 1969年大阪府生まれ、作家。著書に「僕とツンデレとハイデガー」「人とロボットの秘密」などがある。「ガンダム」関連では「ガンダム者〜ガンダムをつくった男たち〜」というインタビュー集を企画、クリエーターたちに取材している。講談社とキングレコードが刊行する電子雑誌「BOX-AiR」では、新人賞審査員も務める。Twitter「@h_taj」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
部屋とディスプレイとわたし:時代は多様性を欲してはいない──コンテンツのクラスタ化と、むしろ画一化
「現代人は好みが多様化し……」とよく説明される。だが時代は多様性を求めているのだろうか。「クラスタへの細分化と、そのクラスタの中での画一化が同時に起こっている」のではないだろうか。
部屋とディスプレイとわたし:北斗の拳とIT言論──意外と共通する「結果は問わない」日本人の原理
現代人の基礎教養「北斗の拳」。そこに現れる「動機に同情すべき点があれば、結果は許される」という不思議な論理は、日本史上から21世紀のネットにまで繰り返し現れる日本人の原理なのかもしれない。- 部屋とディスプレイとわたし:「中二」という病(やまい)と音楽産業
若者が盗んだバイクで走り出したり、支配から卒業していた時代は遠くに過ぎ去った。いま音楽産業は「中二病」を取り込めていないのではないか。作家・堀田純司さんによる新連載の第1回目。 - 部屋とディスプレイとわたし:成功の再配分──出版社が果たしてきた役割と隣接権、電子書籍
作家・堀田純司さんの連載2回目は再び出版社の著作隣接権関連をめぐって。出版社の「成功の再配分」という機能は電子の時代に失われるのではないか。
大河ドラマ「平清盛」における「王家」をめぐって
NHK大河ドラマ「平清盛」では、院政体制を「王家」と呼び、ネットでは「『皇室』ではないのか」といった議論が起きている。同作品の時代考証にあたった本郷氏との共著もある作家の堀田氏に、「王家」という言葉について寄稿してもらった。- 対談・肉食と草食の日本史:世界中が日本化する? 草食男子と少子化の未来
家族の単位が小さくなり、結婚しない人が増え、少子化が進んでいる。今後の日本はどうなるのか。肉食系・草食系という観点から日本史を俯瞰する対談連載、最終回。
