中国の「非ネット世代の中年」と「微信」(WeChat)で伝播する市民デモを追った(2/2 ページ)
中国南部の雲南省・昆明で化学工場建設に反対するデモが起きた。デモの様子は中国版Twitter「微博」のほか、ユーザーが4億人を超えるLINEのライバル「微信」(WeChat)でも広がっていった。そんなデモの主役は反日デモの場合とは異なり……山谷氏による現地からのリポート。
デモを動かした中年の地元愛
ところで今回の昆明のデモで特筆すべきは、微信が情報伝達の主役になったことだけではない。
アップされた昆明のデモの写真を見ると、その主役は中年であることが見てわかる。中国のインターネット利用者の主流である若者は、生活を守るデモにおいては主流ではなかった。「昆明は環境がいいのが長所なのに、最近は地元政府の無計画や取り壊しや道路工事のせいですっかり汚くなった。さらに化学工場建設なんて、今までのいい加減さから見て環境対策がされているとは到底思えない」と地元愛で抗議する。
昨年秋の尖閣問題から生じた反日デモは昆明でも発生。そのときは地元の若者が集まって反日デモを行っていたが「楽しかったー!」というコメントが飛び交い、それはまるでお祭りであった。その様子は「「愛国ではない、害国だ」 尖閣デモと公用車襲撃を否定され困惑する中国ネットユーザー」といった記事や、「反日デモ暴動に「あまりに愚かで悲しい」「義和団や文革のようだ」──中国のネット「理性愛国」の声」といった記事を読み、思い出していただきたい。
30代の中国人なら微博や微信を利用する人はまだいるが、40代以上ではなかなかいない。しかも中国でのインターネット普及率が42.1%に対し、雲南省は28.5%と最も低い(都市部「昆明」と農村部のネット普及の差が激しいとも解釈できる)。ニュースで報じられず、微博の書き込みが消されるなどの情報操作される中で、インターネット利用が少ない世代になぜ伝わったのか。
筆者の周囲を見ると、こうした人々は大家族で住んでいて、若い世代の家族が情報を入手すると親に伝えたり、おじさんおばさん同士のリアルなコミュニティーの中で「何月何日に○○で建設反対デモがあるようだよ」と口コミで伝えたりしていたようだ。
核家族化は上海など大都市部では起きているが、昆明では他地域の都市部からのIターンが少ない分、3世代で住むことが多く、多くの人に伝わったようだ。デモに参加しなかった中年も、太極拳や「老年学校」など様々なコミュニティーの口コミで知った。聞き込みをしたところ、デモを知らない地元の中年はいなかった。
ただ、人々の関心は地元の出来事ばかりということもあり、ほかの地域の人々は昆明のデモに気づくこともなく、気づいたところで関心を持つ人は少なかった。
それはGoogle Trendsのような百度のサービス「百度指数」でチェックしてみてもわかる。デモ当日、16日に地元民しかわからない「五華山」や「正義坊」で検索した人は昆明では少なからずいた。しかしその他の地域からの検索は目に見えるほどの動きはなかった。その日、「昆明 PX(パラキシレン。石油工場よりPXといったほうが通じることも)」という言葉がNGワードに指定された。地元民は地名を「昆明」以外の単語を使うことでネット規制の隙間をすり抜けたが、その他の地域の人は関心を持ったところで、すり抜ける術を知らなかったわけだ。
中国のメディアは、大地震などの災害やAppleの新製品発表など、本気で速報する場合のメディアの記事ボリュームと速報性は日本メディアの比ではない。だが速報が当然の風潮の中で、反対デモの記事がデモの翌日に出たと思ったら、その後その記事はなくなった。
普段はどの世代も政治にさほど関心を持たずに地元ニュースしか見ない一方、中央政府にはある程度の忠誠を見せていたし、ネット規制についても気づくことはなかった。反日デモの時は若者が「当局は報道規制しているし、ネットに書き込んでも消されてしまう。誰の味方なんだ!?」と憤り、工場建設反対デモのときには中年世代が同じように憤った。その結果、この1年で昆明の全生産世代に対し、ネット上のコントロールも含めて不信感を植えつけた。
来月初頭にも再度昆明で工場建設反対のデモを起こそうと、昆明人の間で情報が巡っている。先週末の繁華街では、治安維持のため非常に多くの警察官が出動していた。
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