大学図書館に「誰でも使える」3Dプリンタを導入したSFC その狙いは(2/2 ページ)
「講義の合間に3Dプリンタで友人へのプレゼントを出力」――慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの図書館に、学生が自由に利用できる3Dプリンタが設置された。導入の背景や利用状況、学生の反応は。
機器の運用は学生組織「AVコンサルタント」を中心に行われている。ソフトウェアの使い方など簡単なマニュアルをWebページに掲載したり、制作例を紹介するFacebookページを運営するほか、作業中に分からないことがあればファブスペースのすぐ横にあるカウンターで相談にも応じる。
多くの学生にとってハードルが高いのが、プリンティングするための3Dデータ作成。これをサポートするため、研究や趣味で自ら活用しているメンバーが「3Dプリンタマスター」として初心者の疑問や要望に対応する時間を6月から設けた。「まず、自分がやっててすごく面白いんですよ。指導しているというより楽しさをもっと多くの人に知ってもらいたい気持ち」(3Dプリンタマスターの1人、環境情報学部4年の中澤未来さん)
「以前から興味はあったが、身近にないので機会がなかった」──と話す総合政策学部3年の篠崎洸さんが初めて3Dプリンタに触ったのは4月の終わり。iPhoneケースやアルファベットを羅列したキーホルダーなど調整の必要が少ないものから始め、簡単な3Dモデリングなら自分でできるようになった。
すでにネット上で共有されているデータをダウンロードして出力することもできるので「何も分からなくても見よう見まねで作れる」手軽さにひかれたが、「出力の楽しさを知ると自分でカスタマイズしたくなる。少しずつ勉強してできることが増えるのが楽しい」
学生による自主的なコミュニティー作りも始まっている。環境情報学部4年の西岡英智さんが作ったFacebookグループ「3Dプリンターで遊びまくる」には、現在59人の学生が参加している。興味はあっても何から始めたらいいかわからない人も多いと考え、「ワークショップというほどでもなく、とりあえず集まって使ってみる」時間を今まで数回設けた。メンバーの中で元々の友人は半分ほどで、ファブスペースで集まっているのを見て足を止める人もいるという。「プログラミングを学ぶ時にまず『Hello, world』を出力するように、3Dプリンティングに取り組む足がかりになるものができていくと面白い」(西岡さん)
西岡さん自身の専攻はまちづくりや政策で、直接ものづくり用途で利用しているわけではないが「自分には関係ないと感じている人こそ体験してほしい」という。「海外では発砲可能な銃のプリンティングなど犯罪や法律に関わる問題が浮かび上がりつつある。便利さや楽しさを感じると同時に、この技術が普及することで生活や社会がどう変わるかを考えることにつながる」
導入して2カ月が経ち、反響や今後の課題も徐々に見え始めた。「25年前、当時まだ普及していなかったUNIXをいち早く入れた時のよう」と長島事務長はほほ笑む。「僕たちにはよくわからないものこそ学生に与えたい。予想を超えて、自由に積極的に使ってくれます」
講義の課題制作などで使用するにはまだまだ台数が足りない状態。今後の具体的な計画はまだないが、学生の期待や要望には応えていきたいとした。「3Dスキャナーもあると……もっと面白いことになりそうですよね」(長島事務長)
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