「“メイカー”ブームはまるでネット黎明期」 ハード開発の素人が“ストリートビュー自転車”で起業した理由(2/2 ページ)
ハード開発素人ながら、“ストリートビューの中を走れる自転車”を開発・起業した伊藤将雄さんは、「今のメイカームーブメントはネット黎明期に似ている」と分析。だからこそ面白いと語る。
伊藤さんは先日、海外産の開発キットを使ってLED腕時計を作り、Facebookで写真を公開してみたが、誰1人「欲しい」と言ってくれなかったと肩を落とす。特に女性に、興味を持ってもらえない。
「ものを作るときは、うれしいと言ってくれる人が近いほうがいいが、この、もらってうれしくなさは何だろう。この報われなさは……。同じ作る趣味でも、曲を作ってバンド活動したり、VOCALOIDのCDを出したり、料理が作れる男性はモテるのに……」
ストリートビューを走れる自転車「Virtual Cycling」の商品紹介動画を見た人も、90%が男性で、35〜54歳中心と年齢層も高い。「20代以下は、男性でも電子工作の経験がない人が多いようで、興味を持ってもらえない」。モテないことは、“メイカー革命”の広がりの障害になるだろうと、伊藤さんは本気で心配している。
メイカームーブメントはネット黎明期に似ている
今のメイカームーブメントは「95年ごろのネット黎明期に似ている」と伊藤さんはみる。
「95年当時、『インターネットはすごい』と毎日、新聞に書いてあり、アメリカでの動きも報道されていたが、触ったことがある人はほとんどいなかった。まるで幽霊やUFOのようなよく分からないものだった」
「3Dプリンタがアメリカでブームらしいけれど、日本では多くの人が『今のところ自分には関係ない』と思っている。3Dプリンタで銃が作れて危ないという話は、ネット決済でカード情報ががもれちゃうとか、個人情報が危険とみんなが言っていた雰囲気に似ている」
あれから20年近く。インターネットは身近で当たり前の、誰もが使うものになった。メイカームーブメントも将来きっとそういうものになるだろう。伊藤さんは確信している。
概念がないから、絶対面白い
創業したキーバリューでは、ネットとハードを組み合わせたサービスを展開し、「クラウドとデバイスがつながるところを突き詰めていきたい」という。クラウドとデバイス(ハード)がつながるという概念にはまだ、名前が付いていない。「概念がないので、絶対面白いと思う」
概念のないものに飛び込んだ数年後、その概念に名前が付き、たくさんの人が受け入れてブームになる――伊藤さんはそんな経験を、ネットで繰り返してきた。
CGMという言葉がなかった96年に、ユーザー投稿で情報を集めるサイト「みんなの就職活動日記」を作り、ロングテールという言葉もなかった00年、通販サイトを運営する楽天に入社。ビッグデータという言葉が脚光を浴びる前の08年、アクセス解析サービスを提供するベンチャーを起業し、それぞれ成功を収めてきた。
「未来は誰かが発明するものじゃない。みんながそれに気づき始め、みんなが体験することによって未来になる」と伊藤さんは言う。「それを指す言葉ができ、概念が受け入れられた時に始めてもいいけど、その前にやっておいた方が楽しいだろうと」
会社を立ち上げたのは「おそるおそる」で、ハード開発は「商売にはならないと思う」と笑う。ハード開発は部品や流通などのコストが大きく、素人のベンチャー企業が利益をあげるのは難しい。でも、それでいいという。
「この会社で長くもうけ続けたいとは全く思っていない。インターネットの黎明期にあった会社は今、ほとんど残っていない。ネットという概念があり、いろんな人がサービスを作り、それが地盤になって今のネットサービスができている。ハードの世界にも、そういうものが必要だと思う」
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