「お金がかかるのは変」 無料の受験動画サイト「manavee」作った東大生 プログラミング未経験から5万人が使うサイトに(4/4 ページ)
高額な受験予備校に疑問を持ち、完全無料の受験動画サイトを作った東大生がいる。利用者は月5万人。運営費用はほとんど自腹。「教育の地域格差、経済格差を解消したい」という。
でも受験は「超嫌い」 「恵まれて申し訳ない」
manaveeを通じて教育の格差解消に全力投球する花房さんだが、自身は恵まれていたという。実家は神戸市内。中高一貫の私立校に通い、大学受験浪人もした。13歳から母子家庭だったが、地理的にも金銭的にも苦労した覚えはない。
ただ「恵まれて申し訳ないという気持ち、生きづらさみたいなのが個人的にはあった」という。高校時代も成績が良く、特待生として予備校の講習を無料で受けられた自分自身は、「搾取側」だったと自覚している。
教育格差を解消すべきという考えは誰から影響を受けたわけでもなく、「染みついたアイデアとしてあった」という。「教育は少なくとも機会均等じゃないとおかしいよね、と。ごく自然な気持ちとして」
manaveeは受験準備のサイトだが、大学受験は「超嫌い」だ。自分が現役受験生だったころ、絶対受かると思っていたのに落ちたのが今もトラウマ。センター試験の現代文の「作者の気持ちを選びなさい」という設問は、意味不明でばかばかしいと思う。
就職活動も恐怖だ。「いい時代を生きた人事担当者に頭を下げるのとか嫌」だし、面接で落ちたとして、受験者には理由が分からず理不尽だ。
「モヤモヤしていた」――3年前に突然、manaveeを作り始めた当時をこう振り返る。受験が嫌いすぎて、迫り来る就活が嫌すぎた。そのモヤモヤが、manaveeを作るパワーになったという。「意味の分からないリスクテイクですよ(笑)」
理不尽な社会の基準に合わせるぐらいなら、基準そのものを変えてしまいたいと思うタイプだ。「受験も就活も、押しつけられる社会構造が嫌なんです。僕が価値を作るとか、前提から穴を掘り返すのはいいが、向こうの基準に合わせてそこに当て込むのは嫌」
置きに行ったらあかん
19歳で東大生になり、2年生までは順調に学業をこなしてきた花房さん。manavee立ち上げてから、“普通の東大生”のレールからそれた。2年間休学し、今も大学には行っていない。manaveeが落ち着けば、新しいことにチャレンジしたいと考えている。
「大学は辞めるかもしれない」という。中退すると母は悲しむだろう。母の顔を思い浮かべると、申し訳ないと思う。でも、「置きにいったらあかんと思うんです」。
なぜ大学に行くのか。なぜ卒業するのか。なぜ就活するのか。「念のため」とか「みんながそうするから」と“置きに行く”のではなく、自分自身の気持ちに正直に向き合い、本当にやりたいことを選びたいという。
「保険を取りながらだと、ブレーキ踏みながらアクセル踏むみたいな感じになる。それをしたらあかんな、絶対エンストするやろな、絶対進まんのやろなと思うんです」
小さいころから音楽が好きで、ずっとピアノを弾きたかったが、弾けずに終わってしまった。「それはすごく良くないと思ってて。やりたいことにちゃんと向き合って、自分に正直に生きたい」
花房さんは、自身の視点でmanaveeのこれまでの歩みをまとめた本「予備校なんてぶっ潰そうぜ!」を執筆中。集英社から来年春ごろ発売予定だ。
関連記事
- 「ネットの支援を受け、自分が欲しいものをつくる」――市場調査に頼らない“1人文具メーカー”の挑戦
「自分が欲しいものを欲しい人って意外といるんですね」。ネットを活用し、意見や資金援助を募りながら“1人文具メーカー”がある。市場調査に頼らない“わがまま”なものづくりの形に迫る。 - 「“メイカー”ブームはまるでネット黎明期」 ハード開発の素人が“ストリートビュー自転車”で起業した理由
ハード開発素人ながら、“ストリートビューの中を走れる自転車”を開発・起業した伊藤将雄さんは、「今のメイカームーブメントはネット黎明期に似ている」と分析。だからこそ面白いと語る。 - 「使えば増える」初音ミクと、「お金が王様」の時代の終わり
誰でも自由に使える初音ミクは、旧来の音楽・キャラビジネスと真逆のモデルで成長してきた。クリプトンの伊藤社長は、ミクのような「使えば増える」存在が、次の時代を築くと予見する。 - 家庭教師はスマホの中に――教育産業のIT活用 遠隔指導や“対戦型”学習も
通信教育や学習塾の大手が相次いで教育系ITベンチャーとの連携を進めている。スマートフォンを活用した遠隔指導や、生徒同時を“対戦”させる学習サービスも。 - 「ネットはリアルにどんどん浸食されている」――ニコ動6周年 川上会長に聞く、リアルに投資する理由
ネットサービスながら、「超会議」や「ニコファーレ」などリアルイベントへの投資を加速するニコニコ動画。「ネットとリアルの境界がなくなりつつある」と、ドワンゴの川上量生会長は言う。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.