ネット論客が消える中国 「微博」突然のユーザー減少の背景にある、中国的な事情(2/2 ページ)
著名なネット論客が突然つぶやかなくなったら──中国版Twitterとも言われる「微博」(Weibo)のユーザーが突然5000万人も減った。その背景にあるものは──現地事情に詳しい山谷氏のリポート。
オピニオンリーダーへの強まる圧力
ユーザーが急減した13年下半期、微博をめぐる中国のネット言論界で起きたのは「オピニオンリーダーへの圧力」だ。
8月、影響力の強い国営テレビ局「中国中央電視台」(CCTV)が主催し、フォロワー10万以上のオピニオンリーダーと中国政府のネット関係の役人が集まるフォーラムが開かれた。その名は「網絡名人社会責任論壇」。中国で「(網絡)名人」または「大V」(VはVipのV)と呼ばれる、大勢のフォロワーを抱えるオピニオンリーダーの発言には「相応の社会的責任が伴う」ということを語り合うための場になった。
「1人の影響力はメディア並み」と言われるオピニオンリーダーへの圧力はその後も続いた。9月には中国の最高裁が、デマや誹謗(と認定された)情報が500以上転載されると罪になる──という判断を示し、また一部のオピニオンリーダーにはわいせつ罪や恐喝罪で逮捕状が出た。さらに10月には中国政府認定のネット検閲官を200万人に増員するという発表があった。人民日報のニュースサイト「人民網」は12月、「オピニオンリーダーは以前ほどホットではなくなった」と報じた。
当局の圧力が促した“微博離れ”
様々な微博に関する調査レポートを読んでみると、「新浪微博の利用者の53%が90年代生まれ、37%が80年代生まれ」(新浪)、「大学生の微博ユーザーでは、オリジナルのツイートは4割。大学生によるリツイートの8割がオピニオンリーダーのツイート」(中国科学院報告)、「記事のシェア、ないし記事へのコメントの利用率が高く、利用頻度が高い」(CNNIC)──という微博ユーザーの姿が浮かんでくる。若者が多い微博ユーザーは、オピニオンリーダーの意見をリツイートしたり、気になる記事をシェアするために微博を活用しており、これが微博を中心とした中国ネット論壇のすそ野を形成している。
当局によるオピニオンリーダーへの圧力が強まった結果、政府批判が含まれないものであっても、シェアしたくなるような読み応えのある良記事は減りがちになる。加えて企業が微博を活用するマーケティングが盛んになっており、「微博問政」と呼ばれる中央・地方政府の役人による対話や発信用のアカウントも増え続けており、微博は官民の広告ばかりの“つまらないSNS”になってきている。「微博ユーザーが減少」というニュースに対し、見る限りではネットでは「広告ばかりでつまらない」という反応が多かった。
「大V」と呼ばれるオピニオンリーダーの中には、多数のフォロワーがいるように見えてその実ゾンビアカウントの割合が高い人や、発信力を使って企業の広告塔となり、“ステマ”を行う人もいる。明らかなデマを流す人もいて、例えば1月にはGoogleやMicrosoftなどの幹部を歴任し、多くの人にフォローされているコメンテーターである李開復氏の死亡説を流したアカウントがあった。5000以上が転載された後に李氏本人が登場し、「つぶやきと被フォロー15日禁止の刑」になったというニュースがあった。
だが、オピニオンリーダーは政治問題への直接の指摘をせずとも、PM2.5を始めとした環境問題や、一般庶民が抱えている問題の提起、生き方や考え方へのアドバイスなどを発信することで多くのユーザーに支持されたのも事実である(大V名言集なんてのもある)。圧力が強まりオピニオンリーダーが控えめになる一方、広告のつぶやきが増えたことで、多くのユーザーが微博を使う意味を失い、“微博離れ”が広がったのではないだろうか。
中国では伝統的に「官に政策があれば民に対策あり」という動きはあるものの、「サイバー万里の長城」を越えてまでFacebookやTwitterに向かう動きもなければ、チャットである微信での盛り上がりもいまひとつ。政府がデマをおさえようとオピニオンリーダーに圧力をかけた結果、オピニオンリーダーが知性と知識と知恵とをアウトプットすることが減り、少なからぬ中国ネットユーザーが賢くなる機会が失われることになる。
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