「本が棚からなくなる」――青空文庫、TPP交渉の著作権保護期間延長に危機感
「本が棚からなくなる」――政府がTPPの知財交渉で、著作権の保護期間を作者の死後70年で統一することで調整に入ったとの報道を受け、青空文庫が危機感を表明する文書を公開した。
「保護期間の延長は、私たちの今後得るはずの共有財産の幅を狭める」――政府がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の知財交渉で著作権の保護期間を作者の死後70年で統一することで調整に入ったとの報道を受け、青空文庫は5月22日、危機感を表明する文書を、新着情報ページ「そらもよう」で公開した。
日本の著作権法では現在、著作権保護期間は作者の死後50年だが、権利者団体などがたびたび70年への延長を要望し、議論になっていた。TPP交渉では米国が延長を求め、日本とカナダなどが同調したと報じられている。
青空文庫は、呼びかけ人の故・富田倫生氏を旗振り人として、一貫して保護期間延長に反対。「保護期間の延長が、私たちの今後得るはずの共有財産の幅を狭め、それどころか現在共有している財産すらも多数失わせるおそれがある」ことが理由だ。
70年に延長されれば、今後20年間、新たにパブリックドメインとなる本がなくなり、青空文庫に追加できる本もなくなってしまう。さらに万一、延長が過去に公開された作品にも遡って適用されれば、「今青空文庫で読める多くの作品が、ある日を境に青空の棚から消されてしまう」と心配する。
改正された法律は過去に遡って適用されないのが原則だが、「富田氏はそのことはじゅうぶん承知の上で、遡及延長がありえる事態として、警鐘を鳴らし続けていた」とし、「青空文庫の実務に携わる者としては、どうしても本が棚からなくなる日のことを考えざるを得ません」と危機感をあらわにする。
青空文庫はこの問題について、「そらもよう」やブログ「aozorablog」で、積極的に意見を発信し、延長反対活動や資料のまとめ、今できることの提案などを掲示していく。また、ユーザーからの意見も「info@aozora.gr.jp」で募っている。
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