「なぜ人気になったか分からない」 「セーラー服おじさん」という“社会実験”から見えたものとは(2/4 ページ)
セーラー服姿の普通のおじさん「セーラー服おじさん」が、若者を中心に人気を集めている。その正体は、大手企業のエンジニア。異質なものを社会に投下し、その反応を観察する社会学の実験でもあるという。
“セーラー服おじさん”として有名になるきっかけは、自ら撮った写真を出展していたアートイベント「デザインフェスタ」だ。小林さんは「ローゼンメイデン」がきっかけで人形にハマり、デザインフェスタに人形を撮影した写真を出展していた。
10年5月のデザインフェスタで、著名な女装家・キャンディ・ミルキィさんが小林さんのブースに立ち寄ることが分かり、「こちらもそれなりの格好でお迎えしよう」と考えた。
誰も止めてくれなかった
ミルキィさんは、フリフリの赤いワンピースを着て原宿のなどに現れる有名な女装家だ。小林さんは以前、原宿でコスプレイヤーの写真も撮っており、ミルキィさんとはその時に知り合っていた。
堂々と女装し、その姿が受け入れられているミルキィさんに、「自由と言っていいのか分からないが、堂々しているのがうらやましかった。いったん知名度が確立すると、普通のこととしてまかり通るのだろうと」感じていた。将来、自分もそうなるとは、想像していなかった。
「明日、セーラー服着てきていいかな?」――ミルキィさんがデザインフェスタに来場する前日、周囲に聞いてみた。「予想に反して誰も止めてくれなくて。引っ込みが付かなくなったんです。さすがアーティスト、変なものを見慣れている」
当日。トイレでセーラー服に着替え、出てきた時は「スースーした」。生足にスカート姿が物理的にスースーしたうえ、「これ大丈夫なの? ダメだよね? って。スーっと血の気が引けるような」。
会場の反応は意外なものだった。「みんな、かわいいって言ってくれて、ノリノリで三つ編みも編んでくれて。これ、アリなんだって」。その秋のデザインフェスタ、その翌年――とセーラー服で出続け、「名物みたいになっちゃった」。
都会のスルー力はすごい
セーラー服で出歩くようになったのは、「30歳以上でセーラー服を着て来店すればラーメン1杯タダ」という横浜のラーメン店のキャンペーンがきっかけだ。小林さんのセーラー服姿を知っている人から、行くようにすすめられた。
「じゃあ行ってみようかなと。結局、自分への言い訳が必要だったんだと思います。ラーメンを食べに行く目的があってのことで、人に聞かれたらちゃんと答えが用意してあるんだ、と。必死に自分を説得してる」
「騒ぎになったら逃げよう」「職質されたら事情を話せば許してくれるだろうか」などシミュレーションして臨んだが、駅でも電車内でも街でも何も起きず、無料のラーメンにありついた。「都会のスルー力はすごい」と実感したという。
普通の格好だと、面白くないじゃないですか
ラーメン店に行って以来、「どこまでまかり通るか試してみよう」という気になり、休日の外出時にはセーラー服を着るように。「会社以外、たいていのところに行きました」
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