庵野監督「アニメ業界はこのままじゃ先細っていく」「アニメーターは面白い職業」 後進への思い語る
若手アニメーター、クリエイターの短編アニメを発表するプラットフォーム「日本アニメ(ーター)見本市」が発表された。庵野秀明監督は「今のアニメ業界は袋小路。このままじゃだめになる」と新たな表現の場の可能性に期待する。
庵野秀明監督が率いるカラーとドワンゴの共同企画「日本アニメ(ーター)見本市」が発表された。若手アニメーターや新進クリエイターが限られた予算の中で制作した短編アニメを毎週公開していく。庵野監督は「今のアニメ業界は袋小路。このままじゃだめになる」と危惧し、商業ベースの作品とは異なる活躍や表現の場となればと熱く語る。
東京国際映画祭での特集上映として10月26日夜に行われた「庵野秀明の世界:アニメーター・庵野秀明」のトークショーで発表した。「超時空要塞マクロス」「風の谷のナウシカ」「王立宇宙軍 オネアミスの翼」など過去にアニメーターとして関わった作品の中から自身の担当したカットを集めて上映し、各作品でどんな技術や視点を学んだか、宮崎駿監督との出会いなどについて振り返った。
「ナウシカでは宮さん(宮崎監督)に『お前は人間描くのはダメだな』って全部直されました。修正じゃなくて描き直し。そこから『じゃあ巨神兵と王蟲の戦闘シーン描け』ってなったんですけど、今考えると会ってそんなに時間が経ってないのによくあんな重要なの任せましたよね。多分(爆発シーンの)煙が気に入ったんだと思います」(庵野監督)
「板野一郎に宇宙やメカ、爆発を、宮崎駿に地面がある空間でのレイアウトや表現を」学んだと語る庵野監督が新進クリエイターの自由な活躍や表現の場が減っていることを危惧し、ドワンゴの川上会長に何かできないかと持ちかけたのが「日本アニメ(ーター)見本市」の発端だったという。
スタジオカラーに所属するアニメーターだけでなく、フリーのクリエイターやアニメ業界外からも作り手を招集し、一律の予算を与えて5〜6分の短編アニメを制作・発表していく。小説家の舞城王太郎さんが監督を、鶴巻和哉さんと亀田祥倫さんがアニメーターとして参加する第1弾「龍の歯医者」を含め現段階ですでに30作品程度が決定しており、「まだ言えないけどこれからもかなりすごいメンツになりそう」と庵野監督は自信を見せる。
毎週金曜日に更新する作品の最後で次回のタイトルとメインスタッフを発表する形式をとり、「検索したら何でもあると思うな! ということで、このネット時代にあえて何も言わないことで盛り上がってもらおうと。……エヴァと同じ(笑)」(庵野監督)
宮崎監督による「日本アニメ(ーター)見本市」の題字は、庵野監督と川上会長で3度頼みに行ってようやく描いてもらえたという。当初は違う名前だったものを宮崎監督自身がボツにした上でこのタイトルとなり、さらに「宮さんが描いたロゴが左寄りで右側が寂しかったから」という理由で勝手に「(ーター)くん」部分を加筆したのが今のロゴだと笑う。アニメーターだけでなくCGクリエイターなども含むためかっこ付きにしているそうだ。
「アニメ業界はこのままじゃ先細っていく実感がある。商売を抜きにして何か新しいことをやるなら今が間に合うギリギリのタイミングなんじゃ、という気持ち。アニメーターは絵描きであることはもちろん、カメラマンも役者も全部1人でできるとても面白い職業。その面白さを今こそ伝えたいし、より多くの人に扉を叩いてもらいたい。新しい才能が見られることが僕自身もすごく楽しみ」(庵野監督)
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