3Dプリンタは世界を変えるか? 4年に1度の“印刷業界のオリンピック”で占う:あなたの知らないプリンタの世界(2/2 ページ)
4年に1度、ドイツで行われる印刷業界の大規模な展示会「drupa」(ドルッパ)。今回の注目はやはり3Dプリンティングです。立体を“プリント”することが当たり前になった未来は、印刷の概念すら変わっているかもしれません。
私は大学で彫刻を専攻し、塑造(粘土の彫刻)や木彫をやっておりました。そして、今でも趣味として続けています。デジタル印刷の進化を日々追いかけていますが、バックボーンは超アナログ人間です。
彫刻技法の中に「石膏型取り」という立体物をコピーする工程があります。水を混ぜると固まる石膏(正確には焼石膏)の性質を利用し、数百年間まったく同じ方法で行われています。繊細な重労働は作家の指紋までをも複製できる精度ですが、回数を重ねるとどうしても原型を再現する精度が落ちてしまいます。3Dプリンタとスキャナーがあれば、数百年間変わらなかった立体物の複製にも革命が起きる――個人的な思い入れですが、自分にはリアルな実感があります。
一般的な平面へのプリントと3Dプリンティングは、全く異なるものに見えますが、「版を作る」技術はこれまでもいろいろな分野に派生しています。例えば、レコードやCD、DVD。樹脂板に音楽や映像を工学的、電気的に“彫り込む”作業はプリントの延長と言えます。コンピュータに不可欠な半導体も、電子回路を焼き付ける工程は“印刷”です。
3Dプリンタの技術はこれまでと違う部分はもちろん多いですが、インクジェット印刷を含むデジタル印刷の永遠の5大テーマ「スピード」「高画質」「強度(堅牢性)」「汎用性」「コスト」と目指すところは変わらないと思います。立体のプリントが当たり前になっていくと、みなさんが思い浮かべる「印刷」のイメージは数年後には大きく変わっているかもしれません。
まだまだ3Dプリンタの活用は始まったばかり。スピードや強度、価格、素材など、工夫・アレンジできる組み合わせや伸びしろは無限大です。今後、デザイナーや技術者、研究者たちはとてつもない可能性を感じていくのではないでしょうか。透明な素材によって特殊な光学レンズが簡単に作れたり、伝導率を制御した素材をプリントしたり、電子工学にも革新的な影響を及ぼすことになる展望が見えています。すべてのものづくりに革新性をもたらすものが3Dプリント技術と言えます。
目まぐるしく進化する印刷技術
今回を皮切りに、drupaは3年に1度の開催にペースアップします。インターネットの発明と発達、そしてデジタル印刷技術の普及で大激動期に突入している印刷業界は、文字通り日進月歩。技術はもちろん、私たちの印刷との接点や購買方法も劇的に変化しています。半世紀以上にわたり4年に1度だった開催周期を変える必要があるほどの速さで、目まぐるしく動いているのです。
多くのメーカーはdrupaで、発売予定の新製品や、印刷の未来を示すようなコンセプト製品やサービスを展示します。各社がしのぎを削り、ひらめきと発明を競い合う――デジタルとの融合が進む今は、印刷史上の中でも重要な激動の時代、そしてとても面白い時代です。
7世紀に東アジアで発生したと言われる印刷技術。金属活字を使った活版印刷が発明されたのは1450年頃のことです。それから数百年、製造業とサービス業の垣根がなくなり、新しいビジネスが次々に誕生し、インターネットやテクノロジーが進化を続けています。まだ見ぬ「わたしもあなたも知らないプリンタの世界」の探求は続きます。
著者:霄洋明(おおぞら・ひろあき/Hiroaki Ozora)
日本HP大型プリンターエバンジェリスト。ワイドフォーマット事業本部に所属し、大型のインクジェットプリンターのソリューションアーキテクトを担当。
東京都中野区出身。学生時代は総合格闘技と彫刻(木彫・塑造)に熱中。大型インクジェットプリンタ黎明期ともいえる1996年頃にアルバイト入社した画材店で大型プリンタと出会う。
その後、広告代理店で、屋外/交通広告・商業施設装飾・サイン計画などに関わり、企画ディレクション・制作施工管理を経験。2010年より 日本HPに入社。デジタル印刷を活用したサイン・ディスプレイとインテリアデコレーションの企画・制作・施工の知見を生かし、HP Latex・UVプリンタ(業務用大型プリンタ)の市場・用途開発を担当。現在は、デジタル印刷技術によってサイン・ディスプレイ業界、インテリア業界、印刷業界をつなげるハブとなってお客様の事業領域拡大を支援することがテーマ。
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