日本人の“常識”が変わった? 人が行き交う駅の床に貼られた「フロア広告」の秘密:あなたの知らないプリンタの世界(2/2 ページ)
駅やショッピングモールで見る機会が増えてきた、床面に貼られた広告や誘導サイン。日本で普及し始めたのはこの20年ほどのことです。広がる過程で私たちの「常識」にも意外な変化が……?
「踏む」に宿る日本人のDNA
みなさんもご両親やおじいさん、おばあさんから「敷居を踏んではいけません」「畳の縁は踏まないように」「座布団を踏むなんて」と言われたことはありませんか?
最近は畳の和室がある家も減っていると聞きますが、日本的な作法として「踏む」ことに意味合いがある場面は少なくありません。徳川家康が発令したキリシタン禁令に代表する「踏み絵」(絵踏み)にも、大切なものを自らの足で踏むという行為は失礼なことであるという価値観が表れています。
多くの人で賑わう場所で床に貼られたフロア広告は、当然踏まれるもの。黎明期に私が実際に受けたクレームは「俺の家を踏むな!」でした。建築中のマンションの広告として、航空写真を使って建設地とモデルルームの場所案内をしていたのですが、「俺の家が写っている。踏むなんて失礼だ」という声が寄せられたのです。その時は、航空写真を通常の地図に差し替えることで対応した記憶があります。
当時は「文字や写真を踏む」ということに違和感や抵抗があったのか、通行人のほとんどがフロア広告を避けて歩いていました。広告の掲出時は、実績報告や今後の営業活動のために写真を撮るのですが、その頃はビジュアルを見せながら現場の様子を撮影することも簡単でした。今ではそのように人の流れがぽっかり空いた風景を見ることは少なくなっています。
広告だけでなく、駅や空港の床面表記も変わってきています。新宿駅の都営新宿線と都営大江戸線の間など、大きなターミナル駅での床面サインは一般的になってきています。昔は歩行ルートや案内は路線ごとの色分けだけでしたがより分かりやすくするため、色だけでなく鉄道や路線名やマークも表記されていることが多いです。
テクノロジーの発展により、耐久性の強い粘着フィルム(ステッカー)や、表面がザラザラした滑り止め効果のある保護フィルム(ラミネート)も登場し、だまし絵のトリックアートなどデザイン性が高いものも増えています。そんな技術や素材の発展だけでなく、「踏む」という行為に対する日本人の価値観の変化もあるはずです。
著者:霄洋明(おおぞら・ひろあき/Hiroaki Ozora)
日本HP大型プリンターエバンジェリスト。ワイドフォーマット事業本部に所属し、大型のインクジェットプリンターのソリューションアーキテクトを担当。
東京都中野区出身。学生時代は総合格闘技と彫刻(木彫・塑造)に熱中。大型インクジェットプリンタ黎明期ともいえる1996年頃にアルバイト入社した画材店で大型プリンタと出会う。
その後、広告代理店で、屋外/交通広告・商業施設装飾・サイン計画などに関わり、企画ディレクション・制作施工管理を経験。2010年より 日本HPに入社。デジタル印刷を活用したサイン・ディスプレイとインテリアデコレーションの企画・制作・施工の知見を生かし、HP Latex・UVプリンタ(業務用大型プリンタ)の市場・用途開発を担当。現在は、デジタル印刷技術によってサイン・ディスプレイ業界、インテリア業界、印刷業界をつなげるハブとなってお客様の事業領域拡大を支援することがテーマ。
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