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「無料モデル」は難しい 少なくとも「物語」においては(1/5 ページ)

コンテンツの「無料モデル」は成立するのか――絵本「えんとつ町のプペル」をめぐる“炎上”で改めて浮かび上がったこんな疑問を、作家の堀田純司さんが考察する。

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昔からあった、作家の「炎上ビジネス」

 かつて小説家、久米正雄が、論考「私小説と心境小説」で「自分のことを書いたもの以外、文学ではない。その意味において、トルストイもドストエフスキーも通俗小説にすぎない」と、猛烈にディスったことがありました。

 これは現代でも私小説を語る上でよく引用されるのですが、もし今であれば、いい感じにぼうぼう炎上していたのではないでしょうか。

 「じゃあおまえは永井荷風も谷崎もダメか」「あたりまえだ、あんな変態。芥川龍之介も晩年は私小説に行ったぞ」などと、信者間でコメント欄の激闘が起こったかもしれません。

 もっとも、久米正雄は当時の文壇で勢力を持っていた人。炎上しても平然としていたかもしれませんし、むしろ「文学に注目が集まっていい」とうそぶいていた気もします。

 そもそも、自分たちのことを売り出すために、こうした「プロレス」を仕掛けることは、文学の世界ではよくあることでした。今も昔もコンテンツを売ることは難しい。自信作でも人に知られない限りはどうにもならない。「炎上ビジネス」といっても、それはむしろ昔ながらの伝統かもと感じます。

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議論の火種となった西野さんのブログより

 「キングコング」の西野亮廣さんが絵本「えんとつ町のプペル」を、発売3カ月後に無料公開。このことをきっかけに、あらためて「無料という試み」に注目が集まり、支持や、あるいは「クリエーターに対価が支払われなくなる」という批判など、賛否両論さまざな意見が出てきていました。

 私自身は売れない作家ですが、そうした自分としては、無料公開して成功するかどうかは、結局はその人の才能と努力次第。むしろ問題は「そこできちんとお金が回り、持続可能性を持って運営されるエコシステムが成立するかどうか」。

 そして、そうしたモデルの成立は、少なくとも「物語」においてはなかなか難しいと感じます。

無料モデルは成立「する」が

 無料公開モデルが成立するかどうか。この点については、疑問の余地なくイエスです。たとえば、あなたが今、目にしていらっしゃるこの記事が証拠で、本ITmedia NEWSも無料公開。しかもきちんとお金が回っていて、私もこの記事によって原稿料をいただく。広告を収益とし、それ自体でお金が回るエコシステムが、長く成立しています。ちなみにすでにその原稿料を当てにして、前から欲しかった靴をポチってしまいました。

 また、破綻してしまったとはいえ、キュレーションメディアも、広告を収益とし、そこでお金が回っていたことは事実でした(実際に、知己のミュージシャンは出産後、赤ちゃんがいて思うように活動できない時期に、まさに医療系キュレーションメディアで記事を書き、ずいぶんと助かったそうです)。

 ですが「物語」の場合はどうか。物語を無料公開し、それ自体のエコシステムとしてお金を回すモデルは、そもそも日本に持続可能な形で成立しているのでしょうか。

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