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胸の揺れは「常に優雅たれ」 FGO VRで「目の前にマシュがいる」をいかに実現したか

マシュ・キリエライトはFate/Grand Orderのヒロイン。彼女をより魅力的に感じてもらうための工夫とは何か。

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 女性キャラクターに感情移入してもらうための工夫は必要だが、胸を大げさに揺らせばいいというものではない。VR版Fate/Grand Orderのモーションデザインで順守した「家訓」とは……。

 Unity Japanが主催する「Unite 2017 Tokyo」(5月8〜9日、東京国際フォーラム)で、スマホゲーム『Fate/Grand Order』(FGO)やPlayStation VR向けコンテンツ『Fate/Grand Order VR feat. マシュ・キリエライト』(FGO VR)の制作を手掛けるディライトワークスが、2作品の制作に用いたゲームエンジン「Unity」でのノウハウを語った。


PlayStation VR向けコンテンツ『Fate/Grand Order VR feat. マシュ・キリエライト』

なぜUnityを採用したのか

 プログラミングや技術的な面を語ったのは同社のVRチーム テクニカルディレクターである荻野洋さんだ。荻野さんは1991年からコンシューマー向けゲームの開発に携わっており、2005年からはモバイルに専念、2014年から『FGO』の開発を担当し、2016年にコンシューマー向けに戻り『FGO VR』の開発に従事している経歴を持つ。

 「FGO VRが求める要件は次の2つです。1つは『マシュがそこにいる』と思える作りにすることと、もう1つは短い開発期間でクオリティーを維持できる実装難易度であることです」と話す。


FGO VRのスクリーンショット

 そうした要件のもと、Unity以外にも複数のゲームエンジンを試して検討したという。モーションキャプチャーや3Dモデルとしての動きはどのエンジンも大して変わらないが、2Dをベースとするキャラクター表現についてUnityに事例があったため、「Unityであれば『マシュがいる』を感じることができると判断しました」という。

 納期については企画段階で2017年3月の「AnimeJapan 2017」に体験可能なものを展示することを決めていたため、この締め切りを守るためにも、『FGO』の制作などで社内に知見がたまっているUnityを採用することにしたという。

胸の揺れは「常に優雅たれ」

 『FGO VR』のデザイン面を語ったのは同社シニアグラフィックデザイナーの潘志浩さん。香港出身で、2003年に日本に留学の後ディー・エヌ・エーに入社、2016年にディライトワークスに転職してから、VRの開発に携わっている。


胸の揺れを「常に優雅たれ」と言う理由

 『FGO VR』のコンセプトは荻野さんも言うように「マシュがそこにいる、かわいいと感じられること」。そのためには「揺れ」を自然に見えるよう表現する必要がある。

 揺れの表現には2種類のツールを用いたという。1つはキャラクターに簡単に物理挙動を付けられるUnityアセットの「Dynamic Bone」で、こちらで髪と服の揺れを表現。そしてもう1つはオートデスクの3DCGソフトウェア「3Ds Max」で胸の揺れを表現したという。

 「なぜ揺れる仕組みを分けたのかというと、急な回転や振り向きなど、全てを物理シミュレーションでやろうとすると破綻しやすいからです。また、細かくシミュレーションしようとするとそれだけ負荷もかかります。限られたスペックの中でシミュレーションを使うには、ボーンの数やシミュレーションする部位などをシビアに決めなければいけません。そして、キャラクター挙動と直接関わらない部分の動きはシミュレーションよりもモーションをベイク(動きをテクスチャとして貼り付け、レンダリングコストを減らす手法)したほうが効率的な描写ができます。髪の毛や服をシミュレーションでやるのは、キャラの表情などを描画するアセットがリアルタイムで描画されるので、それと合わせないと違和感が出るからです」(潘さん)

 「胸の揺れについて『常に優雅たれ』と書いたのは、大げさに揺らしていればいいというものではないからです。物理的に自然な揺れのほうが美しいですし、効果的な場面で揺らすことでVR空間でのユーザーの視線誘導にも有効です」(潘さん)

 ここ一番のところで美しく揺らそうということを、Fateシリーズの初作品である『Fate/stay night』のメインヒロインの一人『遠坂凛』の遠坂家の家訓『常に余裕を持って優雅たれ』から引用したということだ。

今後の予定は

 3月のAnimeJapan 2017や5月に徳島で行われた「マチ★アソビ」で体験会を実施しているFGO VRだが、今後のアップデートについては明言を避けつつも開発は続けていると明かした。

 Unityというマルチプラットフォームエンジンの特性上、PCと「Oculus Rift」でもデバッグできるというFGO VR。他にもいくつかあるVR HMDの選択肢の中でも、PlayStation VRを選んだ理由は「本当に一部のマニアしか持っていない海外のVR HMDよりも、もう少し多くの日本人が持っているPlayStation VRのほうが日本向けのコンテンツとして合っているから」だという。家庭向けの発売や配信がありえるか、ということも聞いたところ、「言えませんが、検討中です」とのことだ。


 筆者は実はまだFGO VRを体験したことがない。今後の体験会には是非参加して「目の前にいるマシュ」に会いに行こうと心に誓って取材を終えた。

FGO、FGO VRとは

  • Fate/Grand Order:iOS/Android向けのオンラインRPGゲーム。PCゲーム『Fate/stay night』を初めとする『Fate』シリーズのキャラクター(サーヴァント)たちとともに、主人公とヒロインのマシュが世界を修復していく物語。
  • Fate/Grand Order VR feat. マシュ・キリエライト:『FGO』のヒロイン、マシュとVR空間で一緒に過ごせる「Fate VRドラマ」と銘打ったコンテンツ。2017年1月に制作を発表し、3月の「AnimeJapan 2017」(東京ビッグサイト)と5月の「マチ★アソビ vol.18」(徳島)で体験会を実施した。

Unityとは

 Windows、Mac、Linux、Android、iOSなどマルチプラットフォームで動くゲームエンジン。2Dゲームから3Dゲームまでゲーム制作に幅白く使用されている。

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