近未来SFマンガ「AIの遺電子」出張掲載 第25話「半年がいっぱい」:よりぬきAIの遺電子さん(3/3 ページ)
週刊少年チャンピオンで連載中の“近未来版ブラック・ジャック”こと「AIの遺電子」がITmedia NEWSに登場。今回は第25話「半年がいっぱい」を紹介します。
各話解説
今回の主人公はパーマくん。人間と同等のヒューマノイドではなく、特定用途目的で開発された産業AIだ。介護AIを目指す彼は、人生経験を積むために小学生たちと一緒に学ぶことになった。
人間、ヒューマノイド、さまざまなAIが共存する未来においても、こうした未完成のAIが一般人と暮らすのは一般的なことではないようだ。
本書の主人公である新医師・須堂光は、産業AIの教育プロジェクトへの推薦人を引き受ける。第1巻8話「ミチ」に写真で登場していた、同じ研究室にいた友人からの依頼だ。
パーマくんのパパを自認する友人だが、まだ名前を与えられていない。パーマくんには名前があるのに……。
高齢化が急激に進んだ現代の日本で、ロボットなしで介護が成立するのは難しくなるとされている。
経済産業省と厚生労働省は「ロボット技術の介護利用における重点分野」を策定した。移乗介助、移動支援、排泄支援、認知症の方の見守り、入浴支援が含まれる。そこにAIというキーワードは入っていないが、介護AIの必要性は認知されつつある。
米IBMと米ライス大学は、Watsonを老齢介護に使えるよう改良を加える共同研究を行っている。解説動画にはPepperも登場。超高度AIがヒューマノイドを生み出す、AIの遺電子の未来においても介護は大きな投資を注ぐべき分野で、まだまだ改善の余地があるとされているので、パーマくんの経験が重要なものとなる。その先を目指すにはたくさんの「実体験」が必要というわけだ。
そこで考えられたのが、小学校での体験学習。留学生の受け入れに近いものだろうか。生徒たちがAIと親しむカリキュラムの一環と考えれば、意外とスムーズにいくのかもしれない。
ササやんたちや、別の学校での半年で、パーマくんはナイフを使った切り絵で級友を喜ばせることも、いじめられてナイフで傷つけられる怖さも体験していく。人間とロボットとの差異も、違いを超えた友情があることも知る。
体が、心が、思い通りにならない人たちをサポートする介護の現場では、人の感情を知ることが重要になる。人生の最終コーナーでは、さまざまな負の感情が噴出するのだ。
「アルジャーノンに花束を」で、チャーリイの言葉が知能の変化によって変わっていったように、半年の研修期間が終わりに近づくと、パーマくんは老人のように達観した話し方になっている。たくさんの半年を同時並行で経験していったパーマ君は何十年分かに及ぶであろう、自分の過去を振り返って知るのだ。あのときが自分の人生のハイライトだったのだと。
次世代の介護AIはパーマくんになるのだろう。先輩の介護AIのようにネット経由で動くのか、それぞれのケアロボットに搭載されるのかは分からないが、きっと、人によくしてくれるはずだ。
でも、そのとき旧世代の介護AIはどうなるのだろうか。産業AIが人間らしさを備えると、そういうことも考えてしまう。
山田胡瓜先生への一問一答
―― 小学校のときの一番すてきだった時間を教えてください。できたら4年生のときの。
胡瓜先生 給食で残ったご飯を先生がおにぎりにしてくれて、それを食べるのが好きでした。念入りに手を洗っていたのか、少し石けんの香りがしました。
ある時期から、先生はおにぎりを作らなくなりました。理由を尋ねても苦笑いでした。今は何となく分かります。
作者プロフィール
山田胡瓜(やまだ・きゅうり)
漫画家。2012年、「勉強ロック」でアフタヌーン四季大賞受賞。元ITmedia記者としての経験を基に、テクノロジーによって揺れ動く人間の心の機微を描いた「バイナリ畑でつかまえて」をITmedia PC USERにて連載中。Kindle版はAmazonコンピュータ・ITランキングで1位を獲得した。2015年11月、週刊少年チャンピオンにて初の長編作品となる「AIの遺電子」を連載開始。
(C)山田胡瓜(週刊少年チャンピオン)
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