iPS細胞で作った心臓組織で「不整脈」再現 治療法開発に光
京都大学iPS細胞研究所が、iPS細胞で作った立体的な心臓組織で、致死性の不整脈を再現。新薬の開発や治療法開発への活用が期待される。
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は10月23日、iPS細胞で立体的な心臓組織を作製し、致死性の不整脈の再現に成功したと発表した。発症の詳しいメカニズム解明、新薬や治療方法の開発などに役立つという。
心臓の異常や薬の副作用で生じ、突然死の原因になる「トルサード・ド・ポアント」という不整脈を再現した。これまでもiPS細胞を利用する研究はあったが、心筋細胞だけを使ったものでは、不整脈が起こる前段階までしか再現できなかったという。
研究グループは、まずiPS細胞から心筋細胞を作り、5〜6層の細胞からなる立体的な細胞シートを作製。この段階では不整脈が起こらないのを確認した上で、不整脈を起こしやすい心筋症や心筋梗塞を患った心臓に見られる「間葉系細胞」を加え、2種類の細胞が混ざった立体的な心臓組織を作った。
この心臓組織に不整脈を引き起こす試薬を加えたところ、一定の濃度(100ナノモーラー)以上で、「頻脈になり、心電図の波形や大きさが多様化する」「興奮の波が渦を巻きながら不規則に移動する」など、不整脈の発生時と同じ特徴を確認した。別のiPS細胞を使ったり、副作用を起こす試薬を変えたりしても、同様の波形を示したという。
研究グループによれば、心筋細胞と間葉系細胞を混ぜ、シートの表面で培養したものと比べて、立体的な心臓組織にした場合が不整脈の発生確率が高かった。(1)性質が異なる細胞が混在、(2)細胞が不均一で立体的に組み合わさっている――という条件を整えることで、再現しやすくなるとしている。
研究成果は英科学誌「Nature Communications」(オンライン版)に10月20日午前10時(英国時間)付で掲載された。
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