日本はアピール不足? 「MWC 2018」で見つけた欧州の最新コネクテッドカーたち(3/3 ページ)
世界最大級の通信関連展示会「Mobile World Congress」には「5G」関連の展示が目白押し。次世代の技術やサービスが集まるMWCの会場で、最新のコネクテッドカーと関連サービスについて取材した。
欧州ではさらに一歩進む、ベンツとBMWのコネクテッドカー向けサービス
ドイツのダイムラー(メルセデス・ベンツ)やBMWもコネクテッドカーに力を入れるブランドだ。ともに昨年の「東京モーターショー」に出展していたものから、さらに一歩進んだコネクテッドカー向けのソリューションをMWCに出展していたことが印象的だった。
まずメルセデス・ベンツは欧州で5月に発売を予定する新車「A-Class」をMWCで発表した。同モデルには4G LTE対応の移動通信システムのほかに、独自の人工知能と自然言語処理に対応するボイスUIを組み合わせたデジタルコックピットシステム「MBUX(Mercedes-Benz User eXperience)が搭載される。
MBUXのシステムにとってコアになるのは、自社開発によるクラウドベースのAIプラットフォームと、フロント側前面に展開するタッチディスプレイ、ならびに音声入力に対応するユーザーインタフェースだ。タッチディスプレイは画面サイズのカスタムオーダーにも対応する。
MBUXは走行するほどにオーナーの行動履歴を学習していく。例えばオーナーが毎日、決まった時間に車に乗ってオフィスと自宅を往来する習慣を学習すると、家族への“帰るコール”や、お気に入りのラジオステーションの聴取をレコメンドしてくれる。1台の車を家族でシェアして使う場合も想定し、複数のユーザープロファイルを登録しておき、それぞれに行動履歴を覚え込ませることも可能だ。残念ながら日本に新しいAクラスやMBUXのシステムがいつ上陸するのかなど、詳細についてはまだ明らかになっていない。
BMWは日本国内でも「BMWコネクテッド・ドライブ」のサービスに対応するモデルを積極的に展開している。国内で販売されているコネクテッドカーの移動通信システムはまだ3G止まりだが、欧州では4G LTE対応へ急速にシフトしつつあるようだ。さらに今年のMWCではeSIMをコネクテッドカーに埋め込むというソリューションを参考展示していた。
eSIMとは、近年iPad ProやApple Watch Series 3が採用したことで有名になった“埋め込みSIM”のこと。BMWのコネクテッドカーは、iPhoneとApple Watch Series 3の使い勝手とよく似ていて、オーナーは1つの電話番号をスマホとコネクテッドカーの両方で使えるようになる。スマホのほか車用としてもう1本の通信回線を契約する手間やハードルが格段に低くなるため、コネクテッドカーの普及に弾みが付きそうだ。また感度の高い車載用アンテナを使うことで、スマホからナビゲーションシステムにミラーリングするよりも安定した通信性能が確保できることもユーザーのメリットになるという。
イベント会場に展示されていたBMW 5シリーズには緊急通話発信用と、ルート検索や音楽サービス、情報通信などのためメインに使うプレミアムサービス用のeSIMが2つ搭載されていた。つまりデュアルスロット仕様である。プレミアムサービス用のeSIMは複数のドライバーがプロファイルを登録して切り替えながら使うことも想定している。例えば家族がそれぞれ車に乗るときに自分のスマホとペアリングして使えるし、eSIMの情報を消去・書き直しすればカーシェアリングのサービスにも応用できるとBMWのスタッフが説明してくれた。
MWCには毎年開発中の製品や技術を含めて通信関連の最先端が集まるので、今回筆者はコネクテッドカー関連の展示も多くが未来のコンセプトなのかと思って取材を始めたが、実はもう近いタイミングでマーケットへの投入が検討されているものが中心だった。欧州の人々は日本人に比べて、新しいものに対して積極的な好奇心を持ち合わせていたり、クルマが日常生活に果たしている役割の違いもあるのだろうが、とにかく日本国内でのコネクテッドカーの展開は、技術的にはともかくアピールの点でまだ随分と遅れているように思う。とはいえ、これから通信環境の5G化に向けて、各社前倒しでの技術開発や環境整備が進む中、日本でも東京オリンピックが開催される2020年までにコネクテッドカーの周辺が急に賑やかになりそうな雰囲気も、今年のMWCを取材しながら感じた次第だ。
関連記事
- 今、何ができる? 「東京モーターショー2017」で見たコネクテッドカーの最先端
いわゆるコネクテッドカーは今、何につながり、どんなことができるのか。東京ビッグサイトで開催された東京モーターショー2017のイベント会場を取材した。 - テスラの自動運転は本当に“使える”のか?
米Teslaの最量販モデルである「モデルS」に乗る機会があった。徹底した自動化とパワー、そして自動運転技術。体験してみるとカルチャーショックというのがぴったりの時間だった。 - “声で操作”が運転席を変える――CESで見えたミライのクルマ
「CES 2018」でも年々存在感を増すコネクテッドカー。今年はもう1つのコネクテッド――“人とクルマをつなぐ”ボイスインタフェースやコックピット周りの新技術が注目を集めた。 - 自動運転の基幹技術、AIが読む「ダイナミックマップ」とは?
自動運転車における重要な基盤「ダイナミックマップ」。刻々と変化する道路の状況を伝え、正確で安全な運転を助けるデータベースあるいはセンサーとなる。その実際について、ダイナミックマップ基盤株式会社の中島務社長に詳しい話を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.