海賊版より魅力的なサイトを 一歩先行く「アダルトコミック業界」に学ぶ(3/3 ページ)
使いやすく便利な公式プラットフォームを――漫画の海賊版サイト問題を受け、解決策の1つとしてしばしばこんな提案がされる。実はアダルトコミック業界では、出版社を横断した定額制読み放題サービスが提供されている。
稀見さんは、「エロ漫画はコミケなど同人文化と並行してやっている特殊な世界」と話す。同人誌の世界では「dropbooks」(ドロップブックス)という大手海賊版サイトがある。「同人誌の場合、違法サイトと個人で戦わないといけない。海外配信や削除サポートなどをするエージェントの需要はありそうだ」(稀見さん)
これからの出版社、漫画家はどうなる
出版社横断の大規模な漫画ポータルサイトを作る場合、日本市場だけをターゲットにするとマネタイズは難しいかもしれない。
イベントでは、フリーランス編集者で「マガジン航」編集発行人の仲俣暁生さんが「機械翻訳の技術も進んでいるし、日本での発売と同時に公式の翻訳版も海外に同時配信するくらいじゃないと厳しいのでは」と語った。国によってポルノ表現に関する考えや法解釈も異なるため、国産プラットフォームでコントロールするのが望ましいだろう。
元出版デジタル機構会長の専修大学 植村八潮教授は、「従来の出版社の役割をITでどう代替するか、その仕組みを考えるのもいいかもしれない」と話す。
植村教授は、かつて出版デジタル機構会長として各出版社の著作物をデジタル化する活動に全力を注いできた。「オールジャパンでやれないかと思い、中小企業も乗っかってこれるような電子書籍プラットフォームを作りたかった」とし、「各社との調整作業が大変で、もう1回やれといわれても無理なのでやりたくない」と苦笑しながら当時の苦労を振り返った。
今でも電子書籍は紙の本と同時発売されなかったり、そもそも電子化されていなかったりするベストセラーも少なくない。契約形態、制作・流通システムの違い、電子化のコストなど複数の問題が絡み合っているのも一因だ。国内では多数の電子書籍サービスが登場し、閉鎖していった過去もある。
Komifloが言うように、海賊版サイトがなくても漫画産業自体が変化している以上、出版社や漫画家は変革を余儀なくされている。電子書籍を容易に「セルフパブリッシング」(個人出版)できるAmazonのKDP(Kindle Direct Publishing)を試みたり、自ら無料電子漫画サービスを運営したりと、自ら模索を続ける漫画家たちも多い。
そんな中、赤松健さんがNHKの番組「クローズアップ現代+」出演直後の4月18日に、Twitterで「海賊版に勝てる画期的な解決法」とし、「出版社と作者が共同で漫画村(のような仕組み)を作り、収益を両者に正しく分配するシステムの実証実験を行う」とツイートした。
詳細はまだ明かされていないが、「海賊版データを乗っ取り、20年以上にわたるイタチごっこに終止符を打つのが目標」としている。自らも絶版本などを集めた無料電子漫画サービス「マンガ図書館Z」を運営する赤松さんは、海賊版サイト問題をどう捉えているのか。
ITmedia NEWSでは赤松健さんへのインタビュー記事を近日公開する予定だ。
関連記事
- ブロッキング対象、なぜ「漫画村」「Anitube」「MioMio」なのか 権利者団体・CODAに聞く
「漫画村」「Anitube」「MioMio」について、政府がISPにブロッキングを促した問題。「権利者はどこまで対策を採ったのか」など疑問の声も上がっている。対象がなぜこの3サイトなのか、また、権利者はどこまで対策したのか。CODAの後藤代表理事に聞いた。 - 全地婦連、ブロッキング実施のNTTらに対し「刑事告発も辞さない」
国地域婦人団体連絡協議会と主婦連合会は4月25日、NTTグループ3社が「漫画村」など海賊版サイトのブロッキングを実施すると23日に公表したことを受け、「強く抗議するとともに、ブロッキングを行わないことを求める」と意見書を発表した。 - 海賊版サイト遮断、KDDIとソフトバンクは「対応検討」
海賊版サイトへのブロッキングについて、KDDIとソフトバンクは、海賊版サイトへの対策は重要としながら、対策手段の技術的、法的課題を考慮する姿勢を見せた。 - NTTグループ3社、「漫画村」など海賊版サイトをブロッキングへ
NTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、NTTぷららの3社は、政府が「悪質」と認めた3つの海賊版サイトに対し、ブロッキングを行うと発表した。 - 「海賊版サイトのブロッキングは憲法違反」「漫画村は国内から配信されている」 楠正憲さんに聞く
政府が海賊版サイトのブロッキングをISPに要請するとされる問題。ネット規制問題に長く関わってきた楠正憲さんは「海賊版サイトのブロッキングは憲法違反」だと指摘する。また、「漫画村は国内から配信されている」という。 - 「ブロッキングの前にやるべきことある」 ISPや弁護士が考える「海賊版サイト対策」とは
ISPの業界団体や弁護士などが、ブロッキングの問題やそれ以外の海賊版サイトへの対策方法について緊急シンポジウムで説明した。 - 「政府を頼れない」 海賊版サイト遮断、苦悩するISP業界団体
「法的責任を持たない政府をISPは頼れない」「ブロッキングの費用は、ISPにとってダメージになる」――海賊版サイトへのブロッキングを巡り、情報法制研究所(JILIS)が開いた緊急提言シンポジウムでは、ISP団体の理事など登壇者からは不満の声が漏れた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.