人工知能は「美魔女」という言葉を生み出せるか 雑誌編集者×AI研究者、異色対談:これからのAIの話をしよう(言語編・前編)(4/4 ページ)
人工知能は「美魔女」という言葉を生み出せるのか? プロの編集者と自然言語処理の研究者が、それぞれの立場で「言葉」をめぐる議論を繰り広げる。
―― 「顔に美魔女を塗る」。エロティックですね。「美魔女代金タダ!」……。「美魔女の無い夜景だからこそ、受けれる『人生』が節約になる。」深そうな言葉ですが、人間側が深読みしているだけかもしれません。このフレーズなんですが、人工知能は特に意味も分からず出力しているだけ、という理解でいいでしょうか。
狩野 それは難しい問題です。そもそも意味とは何でしょうか。言葉単体の意味と、文章にしたときの意味と、いろんな「意味」があります。
山本 コピーライターの方は、意図的に意味を壊す作業をしていますよね。
狩野 一方で、人工知能の場合は最初から壊れていますから、いかに人間に近づけるかが大事なんです。
山本 (人工知能が生み出したコピーを眺めながら)すごいなぁ。ただ、どこかで見たことのあるようなコピーが多いですね。
狩野 既に見たことがあるようなフレーズかもしれませんが、それが100万以上あると考えてください。ここまで到達するのに2年ぐらい掛かっていて、システムを作るにあたって電通さんにも協力してもらってます。
人工知能が出力した内容を電通の社員に評価してもらっていて、最初はだいたい×が付きました。それが今だと9割は日本語として成立して、コピーとしても最低限成立していそうなのは5割はあります。
「優れたコピー」とは何なのか
―― 日本語として使えるものと、コピーとして使えるもの。その違いは何ですか。
狩野 評価者が変わると、答えも変わることがあります。Aさんは「良い」と言っても、Bさんは「ダメだね」と。フィードバックをシステムに反映したくても「良い感じだから」という返答で、何が良いのかを具体的に教えてもらえない。そうした人による違いと言えばいいでしょうか。
山本 難しいですね。最初に考えるときにロジカルに「これが良いよね」と考えていないので、出来上がった内容に対して「あー、なんかいいね」としか言えない。
―― 機械に言葉を作らせるよりも、教師データの作り込みが大事ですね。その人のセンスが問われそうです。
狩野 人間は、育ってきた環境の中で覚えた言葉しか使わなくなっていくと思うんです。そんなにものすごく新しいものって生まれなくて、組み合わせの妙がうまい人が良いのかなと。
山本 優れたコピーライターは、特殊な言語感覚を持っていると思います。育ってきた環境や、その人が蓄積してきた知性、直接には役立たない知識が、言葉から離れて横串にする瞬間に生きてくる。
でも、それらは人によって偏りがあると思うんです。例えば1日中エロいことばっかり考えている人の知性って、すごく偏ってると思うし、だじゃれもエロいのかもしれない(笑)。人工知能の場合、偏りがどこにあるかはっきりしていない。そういう「偏り」をどう生み出すかが個性につながるのではないでしょうか。
狩野 静岡で開催された「コピー大賞」という大会に、人工知能が考えたことを伏せてコピーを出したんです。すると無事にファイナルまで残りました。なので、一線は既に超えているというか、一次選考レベルは超えている。
ただ、優勝したコピーはちゃんとできているし、かつ意味を重ね合わせていた。いろんな読み方ができて、全体としてのまとまりもある。そこは人工知能にはまだ難しいと感じています。
―― 学習させたデータ次第でしょうが、「何もしていない」と言っている40代の女性たちに対して「魔女じゃね?」と言える人工知能は現時点ではありうるでしょうか?
狩野 かなり発想が飛んでますよね。女性に対して「魔女」は出るかもしれませんが、40代女性に対して「魔女」は難しい。ものすごく頑張ればできるとは思うのですが……データにも寄ると思いますし、どこまで突き抜けられるかですね。
―― つまり、これに関しては人間のコピーライターが持っているスキルをとことん磨き上げて辞書が作れた場合においてのみ可能性がある、という理解でいいでしょうか。
狩野 それはもちろん、圧倒的にそうです。
(「人工知能はセミプロのクリエイターを駆逐するのか」について議論した後編へ続く。近日公開)
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
編集部より:著者単行本発売のお知らせ
本連載を執筆している、松本健太郎氏の書籍「誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性」が、2018年2月15日に発売されました。
なぜ、各社がこぞってスマートスピーカーの販売に乗り出したのか? 第3次人工知能ブーム終息の可能性と、ディダクション(演繹法)による第4次人工知能ブームの幕開けなど、人工知能における5年、10年、20年の展望を解説しています。本書の詳細はこちらから。
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