AIコピーライターの衝撃 広告代理店は今後どうなる?:これからのAIの話をしよう(言語編・後編)(4/4 ページ)
人工知能はセミプロクリエイターを駆逐するか? AIコピーライター開発者と雑誌編集者による、「言葉」をめぐる異色対談。
考えすぎたコピーはつまらない
―― 何も考えていないAIのキャッチコピー、考えに考え抜いた人間のキャッチコピー、どうやら時と場合によっては人間が勝つ可能性もありそうですね。たまに何も考えていない人間もいますが(笑)。
山本 何も考えていない人間の方が、考えている人間よりすごいコピーを生み出しますよ。考えすぎたコピーはあまり良くない。週刊誌を担当していたころ、タイトル付けにすごく厳しい上司がいたんです。
タイトル決めに一晩かかる。結局、午前4時ぐらいに「これだ!」と出してきたのが、最初に考えたタイトルで(笑)。考えすぎるとよく分からなくなっちゃうんですけど、やり尽くすだけの努力をしたというのが大事なんだろうなと。
―― 説明できないからこそ良いのでしょうか。説明できてしまうと「分かった」と感じてしまうのかも。想像の余地が残らないから。
山本 考え抜いたコピーって本当につまらないですよ。少し前、「ダブルインカムノーキッズ」(DINKs)ってはやったじゃないですか。そのような言葉を雑誌「女性自身」で作りたくて、編集長が一生懸命考えたのが「ツインカム夫婦」。ツーインカムと、車のツインカムを重ねたんでしょうけど、全くはやらなかったです。
ちなみにOLって言葉は「女性自身」から生まれたんです(読者から公募)。昔はオフィスで働く女性を「Business Girl」と呼んでいましたが、アメリカの隠語で娼婦を指すことが分かり、違う言葉を作ることになりました。そこで生まれたのが「Office Lady」です。
狩野 昔はメディアの力が大きかったですが、今は口コミの世界なので、何が広がるかは分からないですね。
山本 美魔女もそうですが、昔はメディアが流行語を作ろうとしていた。雑誌の中だけでやっていると広がりに欠けるから、テレビで取り上げられるにはどうしたらいんだろう、と思いながらやっていました。
人工知能の役割、人間の役割
狩野 機械は単語しか見えていない状態でキャッチコピーを作っているので、もっと情報を与えれば良いかもしれない。代理店の世界では、オリエンシートというのを広告主からもらいます。人間はそれを読み込んで抽象化し、言葉にしているのでしょう。
―― 解釈と抽象化が人間の役割で、それをし終えたら、後の具体的な出力は人工知能に任せていく、という世界はもうすぐ訪れるかもしれません。
狩野 常識問題という壁がありますからね。人工知能は、ちゃんと教えてあげないと人間が生きていることも、手が2本あることも分かりません。そういう常識をどんどん教え込まないと、意図を重ね合わせるのはなかなか難しいでしょう。
山本 一般の人たちが想像するほど、今のAIは人間に近いというわけではないんですね。僕の中の人工知能のイメージはSF映画「2001年宇宙の旅」に登場する、意思を持つコンピュータの「HAL」。そういう時代は、まだ来ないってことですね。
狩野 私は早くそういう時代を作りたいですけどね。冗談で学生には「早く人類を滅ぼそう!」と言ってます(笑)。
―― キャッチコピーを作る人工知能自体に意思は無いんですけど、生成されたフレーズを見ると意思を持っていそうと感じてしまう。
狩野 私がボタンを押してコピーを生成しているわけですから。全体として意思があるように見せるなら、もう少し自律的にならなきゃいけない。
対談を終えて
対談を終えて、人工知能は「美魔女」という言葉を生み出せるか、という問い立てが間違っていたと気付きました。正確には、人工知能が出力したキャッチコピーのすごさにわれわれのような一般人は気付けるか、という表現が適切なのかもしれません。
創造性とは評価する人間次第であり、評価者の名前によって私たちは「これはすごいね」と判断しているのかもしれません。狩野先生が「人間が究極」と表現するように、本来であれば「みんな違ってみんな良い」はず。どうして「創造性」と聞いて「万人に評価される創造性を発揮できるか?」と私は考えたのでしょうか。恥ずかしいです。
人工知能が浸透すれば、私たちはセミプロ以上・プロフェッショナル以下の能力を持つアプリを携えて、無数の創造性あふれる制作物に囲まれるのではないでしょうか。
例えば映画であれば、これまでは巨匠の描く世界観に圧倒されるばかりでした。しかしこれからは、人工知能があなただけにフィットし、満足させる映画を創るかもしれません。
みんなが思う「最高」と、あなたが感じる「最高」。果たして、どちらに価値があるんでしょうか?
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
編集部より:著者単行本発売のお知らせ
本連載を執筆している、松本健太郎氏の書籍「誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性」が、2018年2月15日に発売されました。
なぜ、各社がこぞってスマートスピーカーの販売に乗り出したのか? 第3次人工知能ブーム終息の可能性と、ディダクション(演繹法)による第4次人工知能ブームの幕開けなど、人工知能における5年、10年、20年の展望を解説しています。本書の詳細はこちらから。
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